イベント・勉強会レポート
「SLOTH JINNAN(スロス ジンナン)」を運営する株式会社しんか 代表取締役 久田友彦さんにお話いただきました(第82回コワーキングスペース運営者勉強会®)
東京都渋谷区神南に2021年9月にオープンしたコワーキングサロン「SLOTH JINNAN(スロス ジンナン)」を運営する株式会社しんか 代表取締役 久田友彦さんにお話いただきました。
日時:2021年11月24日(水曜日)19時~21時
場所:SLOTH JINNAN(スロス ジンナン)(オンライン配信も同時開催)
株式会社しんかの久田と申します。私達の会社は、主にオフィス移転を行っている会社です。オフィス移転のきっかけを通じて、企業の成長支援を行うということを理念としています。オフィス移転を単なる移転にせず、企業の成長のきっかけだと捉えて15年やってきています。
しんかが主に行っていることは、オフィス仲介業、不動産オーナー向け空室支援、またスペースを中心にしたコミュニティ運営とそれに付随した起業支援、それからデジタルホワイトボードの導入支援を行っています。デジタルホワイトボードはYouTubeで使い方動画を公開しており、企業さまより発注をいただいて販売しています。
しんかの特徴~オフィス仲介、コワーキングスペース運用、SNS活用を柱に~
しんかの特徴の1番目として、渋谷でオフィス仲介を16年行った実績がある私を中心に会社を運営しています。市場の移り変わりが大きい渋谷の中で、居抜きの退去や入居の支援実績があります。
2番目は、スペース運用です。しんかは6年6期を迎える会社ですが、私は起業して11年になります。しんかの前に運営していた会社からスペース運用をしています。実はしんかの運営するコワーキングスペースはしんかのオフィスです。オフィスをそのまま私達もコワーキングスペースとして利用しながら、皆さまと交流しています。皆さまの隣で作業する中、お困りごとを解決していくということを8年行ってきました。これの派生で、コワーキングスペースSLOTH JINNAN(スロス ジンナン)を始めたという経緯です。
3番目は、SNS活用です。SNSの活用の結果としてテレビに出演したことが何度かあります。また、私達は何か媒体を作って集客しているというよりも、Facebookで繋がっている方からのご紹介でお仕事させていただくことも集客のきっかけとなっています。
「仲間」を大切にしているから付けた「しんか」という社名
しんかが大切にしていることは「仲間」です。
私の実家は沖縄で、19歳で東京に来て現在21年目となります。起業は2回目となるのですが、起業ってやっぱり大変で、その中で顧客や仲間に支えられてきたと思っています。それで、沖縄方言で仲間のことを指す「しんか」を会社の名前にしました。私達は、顧客にオフィス移転の相談を受けても、お話を聞く中で移転が必要なければ「しない方が良い」、また、拡張の移転の必要がある場合は「必要があります」と、積極的にご提案しお手伝いするよう心がけています。
しんかは、「繋がり」を「あなたが選ばれる優位性づくり」と捉えています。名刺の活用って結構難しいと私は思っており、例えば私はSansanで名刺交換した人が1万2千人ぐらいいるのですが、二度と会わない方の方が多いです。今はFacebookで繋がるようにしています。2,800人ぐらいの方と繋がっていますが、一度お会いした方をきっかけとして別のきっかけをいただく機会があります。今日も実は、Facebookからの繋がりでこうして講演をさせていただくことになりました。皆さまもぜひ私とFacebookにて交流させていただければと思いますのでよろしくお願いいたします。
そのようにFacebookを活用していく中で、2018年に「いま部屋を探しています」というフジテレビの60分番組にて、20分間出演することになりました。1月2日の深夜番組で放送されたのですが、その後も含め4回ほど放送され、友達に「何でテレビ出てるんだ」と怒られました(笑)。尺(出演時間)が長くてインパクトも強かったと思います。また、2020年のゴールデンウィーク開けの7:05頃、TBS「あさチャン」にも出演しました。これもSNSがきっかけで、私達が発信していることをメディアの方が観てくださり、取材を受けることになりました。
コロナ禍におけるオフィス移転の実情
コロナをきっかけに、どうオフィスのあり方が変化したかということをお話したいと思います。コロナをきっかけに、2,000坪借りていた企業様から縮小移転したいという話がありました。何坪がいいだろう、200かな100かな、と話してもいましたが、最終的に10坪のシェアオフィスに移転するということが起きていました。その結果、空室率が増えました。全てが縮小というわけではありませんが、皆さまそれぐらいの単位で縮小移転をしているのです。渋谷は拡大移転をされている企業も多いのですが、縮小移転がこれだけの単位行われれば空室率が増えるよね、ということがコロナ禍での変化です。
オフィスの借り方も変化しました。今後どうなるか分からないということから、なるべく工事をせず入居したいという志向が強く、「居抜きオフィス」での移転が増えました。単価が高くても、居抜きで工事費がかからないのならそのまま移転したい、ということが経緯となることが増えました。
コミュニケーションの機会の損失=クリエイティブな機会の損失
働く人達の環境の変化については、この1年半~2年の間、出社制限によるリモートワークに変化し、家から出ない生活が始まったと思います。Web会議が増え、会って打ち合わせをする機会は少なくなりました。その結果雑談する機会が減りました。Zoom飲みが流行りましたが、実はZoom飲みというのは一方的に誰かが話しているのを聞くようなものが多く実際にはそこまで楽しくない、本当にコミュニケーションの穴埋めができているかといえばそうではないのではないか、と私達は思っています。コミュニケーションの機会の損失はイコールクリエイティブな機会の損失ではないかと私達は捉えて、SLOTH JINNANプロジェクトがスタートしています。
SLOTH JINNANが目指したいことは「クリエイティブな日常を共につくる」ということです。「信頼できる仲間との対話によって増幅された感性は、その関係性がドメスティックであればあるほど濃い濃度で発酵される。仲間と共に独自に追及を続けた表現は、時間をおいて徐々に周囲にも惹かれる存在になっていき、その創造的な日常の積み重ねが、街のカルチャーと呼ばれるようになるのだ」ということを一つのテーマにしてSLOTH JINNANを作っています。
談話する中でクリエイティブな何かが生まれる場所
まだリモートワークをされている方もいらっしゃると思いますが、飲み会だけではなく仕事のきっかけもなかなか少なくなっているのではないかと思っています。特にクリエイティブな、新しいものを作り出そうとしている方達は、たわいもないお話の中から「これやってみよう」「これって面白いね」と思ってもらえる機会があることで仕事が生まれたり新しいアイディアが生まれたりする機会があったと思っています。今までの歴史を見ていても、クリエイティブな場所というのは皆さまが談話する中で何かが生まれていたと私達は読み解いています。スペースをそういう場にしていきたい。どちらかと言うと、仕事のワークスペースの場というよりは、何かが生まれる場所にしていきたい。そういうニーズがあるということでSLOTH JINNANをやってきました。
働くための場所というよりは、感性の合う仲間が集い働きながら談話を楽しむ場所という捉え方です。どちらかというとカフェ寄りの立ち位置で、常に音楽が流れていて対話が聞こえてしまうような場所です。夜になったらムーディーになるなど朝・昼・夜で雰囲気が変わり、そこにいる人達の雰囲気も変わるということができるのではないかと思っています。
コロナ前は、コワーキングスペースでは皆さまコミュニケーションをとりながら一緒にお仕事をしていましたが、今はどちらかというと本当に作業場になりつつあるなと思っています。そのような中、またコワーキングスペースが皆さまが一緒に働く場所にならないかと思っており、そうなることを目指しています。
利用者が集い、そこから何かを生み出せるスペースへ
スペース名「SLOTH」に込めた意味
「スロス」は日本語で言うと「ナマケモノ」という意味があります。英語では「Slow(スロー)」からきています。日本ではナマケモノと言うと怠けているというイメージがあると思いますが、英語のSlowに関して言えば「自分のスピードで生きている」のがナマケモノで、実は自分のやりたいことを貫いている生き物だと考えています。ナマケモノはぶら下がっていながら体毛に蛾を飼っており、その蛾のフンの中に生えた藻を食べることで下に降りずに生きています。実はエコシステムを自分の身体に持っていて、他者と共生していけることで、彼らは自分達がやりたいことをして生きている動物だと私達は読み解いています。そういう人達が生き生きと集まっていける場所にしていきたいと「スロス」という名前にしました。
用途別のスペースにも思いを込めて
SLOTH JINNANは実は以前は洋服や雑貨のセレクトショップで知られるBEAMSのショップでした。
SLOTHのバースペースは、私達株式会社しんかが運営していますが、株式会社ドラミートウキョウというウィンドウディスプレイをやっている会社さまに借りていただいていており、イベントやポップアップストアなども行っております。このように、会員さまのスペースというよりも神南らしい場所として使っていけるようにしたいと思っています。
会員専用のスペースは、真ん中にライブラリーがあります。ライブラリーにはSLOTHらしい100冊の本をご用意しています。これらの本を読んでいただいても結構ですし、カメラを使ったライブ配信を行っていただくことも可能です。仕切りがカーテンしかないので、音が入ってくるし出てもいくというライブ感があります。SLOTHの一番の特徴であるライブ感を楽しんでいただける場にしていきたいです。
ミーティングスペースも敷居がありながら入口はカーテンしかなく、音は聞こえるものだと捉えてご利用いただけるような方にご利用いただいています。とはいっても音が入ってはまずいという方もいらっしゃるので、もともとフィッティングルームだったところをそのままwebブースにしています。そこでweb会議などでご利用いただいているというのが今の時節の利用の仕方です。ミーティング利用がない時は会員様もご利用できます。本日のようなイベントやYouTubeの撮影などにもご利用いただいています。
このスペースは以前利用されていたBEAMSの頃の仕様をそのまま引き継いでいます。この空間の仕様の中で私たちらしさを表現するのは難しいと考えて、あえてトイレで表現しています。SLOTHのテーマであるコミュニケーションが弾む空間をイメージしています。
五感が心地よいコミュニケーションスペースを作るための「調光」と「聴景」
視覚だけに限らず、五感が心地よいコミュニケーションスペースを作っていくべきではないかと考え「調光」と「聴景」の調整にも力を入れています。
調光に関しては、朝は日の光が大きな窓から入り、夜はナイトモードとして通常ついているライトが消えて手元の間接照明だけがつくようなモードになります。本日のセミナーが終わった時にはナイトモードになっていると思うので、それを楽しんでいただければと思います。
聴景に関しては、今は音が何も流れていないので私の声しか聞こえない状況ですが、ここで誰かがしゃべったら違和感がありますよね。それを違和感がないように音でうまく調整する仕掛けをしています。今回、株式会社神山聴景事務所の神山健太さんに聴景を作っていただきました。神山さんにプロジェクトの途中からご参加いただき、私達の考えやどういうことをしたいのかをお伝えした上で、一緒に今の音楽を作っていただきました。空間づくりのお手伝いを神山健太さんにしていただいたのです。
神山健太さん、SLOTHの音楽を作った経緯と、どのようなことを目指して作ったのかを教えていただけますか。
神山さん
私は「聴こえる風景をデザインする」という意味で「聴景デザイン」と名付けています。神山聴景事務所ではもともと商業施設やレジャー施設などの空間の音作りを行っていましたが、コロナ禍になり、シェアオフィスやコワーキングスペースの音問題を身近なクライアントさまから相談いただくようになりました。実際行ってみるとやはりその空間に合っていないような音楽であったり、音楽だけではなくて音響の面で色々問題があったり、これはなんとかしないとと思いました。せっかく内装をあれこれ考えて作っているのに音楽や音響のせいで空間の価値が下がるという現場をたくさん見てきたのですが、これは働く空間だけではなく全ての空間がそうなり得ると思います。音楽づくりだけではなく音響という面で、発生する音全てを考慮して何か音を作れないかと思っていました。そこで久田さんと知り合うきっかけがあり、どんな音作りをしようかと思いました。
渋谷にもいくつかコワーキングスペースがあり、その中でオリジナルのBGMを作っている場所もあるにはありますが、作ったものをそのまま流してしまう現場がありました。人がちゃんと入るようになってからすべての音響が分かってくるので、音楽を導入して終わりではなく、人が入ってからそこで始めて音響設計をするということも大事にしています。また音楽という面でも、SLOTHというブランドを維持するために、もっと皆さんのコミュニケーションを促せるような音楽づくりをしてみました。
音楽のテンポ感も、一時間のうちにテンポを微妙に下げたり上げたりして細かく調整しています。気付いたらすごくテンポが速くなっていることでテンションが上がったりモチベーションが上がったりして、話すのが楽しくなり、結果的に楽しい空間につながるようにしたいです。
僕もここに時々通っていますが、なるべく仕事をしないようにしています。働くだけではない場所だというSLOTHのブランドという面から、僕もここに来て自分の好きな音楽を流したり読書したり自分が好きなことをやったりする中で、皆さんがどうこの空間を使っているかを眺めて観察しています。その中でまた新しく音楽をとか、こういう音作りもアリかなとか、この時間帯ってみんなこういうふうに使っているがこういう音環境にした方がいいかなとか、照明との関係性も考えながら、今までにはない作り方をしています。コワーキングスペースが本当に働くだけの環境になればまた別のアプローチになるのですが、SLOTHはやはりちょっと遊び心も考えて作ってみました。
このスペースのオーナーさんはアパレルが本業で、このエリアに2棟ビルをお持ちです。ここは渋谷公園通りというエリアに属しますが、公園通りの理事長もされており、この地域がどうやって発展していったら良いかということに関わっていらっしゃいます。
このブロックには私達と同じような業態が5社ほどいらっしゃいますので、やると決めてから競合がたくさんいるのだなと思ったのですが、オーナーさんと私達のこの地域での強みとしては「この地域に根差した企業がやっている」ということがあります。私はオフィス仲介をしているため色々な企業さんとのつながりがあり、またオーナーさんは理事長をされています。近隣の北谷公園のイベントの出展者を私達が紹介したり、こういうことが面白いんじゃないかと地域ぐるみになって企画に参加することができたりという立ち位置にいることが一番の強みだと思っています。
渋谷区は北谷公園を中心に盛り上げようとしているので、北谷公園とこの施設をどう繋げて差別化をしていきブランドにどう繋げていくのかということが、私達がこれからやらなくてはならない課題だと捉えて今やっています。
本日はありがとうございました。
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