コラム
小規模事業者持続化補助金について、中小企業診断士で新宿区立高田馬場創業支援センター施設長の田中健一朗さんにお聞きしました。(後編)
中小企業診断士で新宿区立高田馬場創業支援センター施設長の田中健一朗さんに小規模事業者持続化補助金についてお話を伺います。
平成30年度の小規模事業者持続化補助金が公開されました。
中小企業庁:平成30年度第二次補正予算「小規模事業者持続化補助金事業」(商工会議所地区分)の公募が開始されました
平成30年度第2次補正予算 日本商工会議所 小規模事業者持続化補助金
前半の続きとなります。
小規模事業者持続化補助金について、中小企業診断士で新宿区立高田馬場創業支援センター施設長の田中健一朗さんにお聞きしました。(前編)
具体的な提出書類を見ていきましょう
――平成30年度第二次補正予算の日本商工会議所の小規模事業者持続補助金のホームページを見ているのですが(https://h30.jizokukahojokin.info/)、申請書類の様式が1-1から9までありますね。
これは全て必要ということでは限りません。一番シンプルな単独申請では、様式1-1、様式2「経営計画書」、様式3-1「補助事業計画書(単独申請)」も必須です。あとは様式5「小規模事業者持続化補助金交付申請書」になります。様式7,8,9は特定創業支援等事業や買い物弱者対策事業の場合など、特定の条件を満たすことで、補助額を増やしたい場合に提出するものになります。
国語だと思ってきっちり書いてください
――書き方のポイントなどはありますか?
これは補助金全般に言えることですが、「国語の問題」だと考えるのがいいと思います。なぜこの補助金が実施されるのかを踏まえずに、「自分はこれがしたいからお金をくれ」というスタンスでは採択されない可能性が非常に高いです。故に募集要項は必ずきちんと読み込みをしてください。かなりの枚数があり、本当に面倒くさいですが募集要項をしっかり読んでおいていただいた方がいいと思います。
例えば、募集要項の24ページに事業目的という項目があり、「なぜこの補助金を実施するのか」ということが書かれています。これを読むだけでも「地域ごとにある商工会議所と連携をして」、そこで経営指導を受けてくださいということ。「人口減少や高齢化などによる地域の需要変化」、昔とはちょっと状況が変わってきましたということ。そして「それに対応していくための補助金をください」というストーリーにする必要があるということがわかります。単に「私、頑張るので」とか「コワーキングスペースをきれいにしたいので」という話だけではダメなんですね。
例えばコワーキングスペース業界だと、「テレワークの推奨」「地域のコミュニティの核になって新しい地域活力を生み出す原動力」「統計的に創業する人は増えていませんがコワーキングスペースで創業する人が増えてきている」「大手企業のコワーキングスペース進出」など、当初コワーキングスペースをオープンしていた時はなかったような状況変化があるわけです。つまり「時代の変化により、顧客ニーズに対応するためにこれを買いたいです、補助金をください」というような筋書きが必要ということです。
画像や図、写真などを盛り込むことも有効です
――他に、書き方のポイントはありますか?
これは僕の推測ですが、審査する人もそんなに日数は取れないはずで、限られた時間でものすごい数の申請書類を裁くことになると思います。イメージとしては書類がかなり高く積み上げられている感じですね。そんな環境で申請書類を一つずつ見て、採点するという気の遠くなる仕事なわけですが「読んでいてこの人だったらいけそうだな」「この人だったら応援したい」と思わせるような、書類にするべきだと思います。イメージしやすいように画像や図などを入れた方がいい、むしろ入れないといけないと思います。写真も大丈夫です。何書いているかわからないようなのは論外です。
――枚数は決まっていますか?
小規模事業者持続化補助金では、枚数制限はありません(補助金によっては枚数制限のあるものもあります)。私は「様式の枠の中だけで書いたら採択されないので、様式の枠を広げて、必ず枚数を増やして書いてください」と伝えています。そんなに枚数を多くしない方がいいという同業の方もいますが、私は補助金申請に関しては枚数を書いた方がいいと考えています。融資に関しては、そこまで書く必要はありません。なぜなら考え方が違っていて、融資というのは極論すると「その人が〇か×か」だけなんですよ。しかし、補助金の場合は、採択枠が100と決まっていたら、その100の中に入らなければならない。500人応募があれば、400人よりは優れた評価を得ないと採択されません。つまり絶対評価か相対評価かということですね。金融機関の融資は、その人の絶対評価なので、自分の事業が伝わることが重要で、必要以上に枚数を盛って誰かと比較する必要はないわけです。補助金は枚数があった方が、パンチが効いててわかりやすいと思います。
当たり前のことも書いていいんです
だらだら長く書くことはいいことだとは思いませんが、自分の中では当たり前のこともしっかり書いてください。例えば「ドロップイン」は、コワーキングスペースをしている人にとっては当たり前の単語ですが、審査する人はわからない可能性が高い。「ドロップインとはこういう利用方法でこういう人が来ます」と丁寧に書いていくと、自然と枚数は増えると思います。「ドロップイン特化のコワーキングスペースです」と端的にびしっと書いても、審査する人からすれば何を言っているかわからなければ意味が無い。なので、そんな当たり前のことまで紙の資料を見ただけでわかるように、気を付けて書く必要があります。
さらに、申請書の採点は項目が立てられているのではないかと思います。長く書くことで「部分点を稼ぎにいく」作戦とも言えます。
事前に相談会を開催している商工会議所もあります
――実際に書いたものを提出前に誰かに見てもらうことはできるんですか?
商工会議所で印鑑をもらう前にも、相談会を受け付けているところもあります。詳しくはそれぞれのエリアの商工会議所の窓口にお問い合わせください。小規模事業者持続化補助金は、「申請する際に商工会議所の人に相談をしてくださいね」という前提になっていますので、誰かには見てもらうことになります。ただ相手も人間ですし、年度が変わったばかりのタイミングで、小規模事業者持続化補助金の相談が多くなり忙しいと思うので、一生懸命書いてきてここはどうしたらいいですかと聞いてくる人と、お金貰えるらしいからと白紙で持ってくる人を比べて、どちらがちゃんと対応してもらえるかというと、必ず前者だと思います。そのため、商工会議所にお持ち込みになる段階では、ある程度書き込んだ状態でもっていって相談される方がいいと思います。全部わからなくてもある程度は書いて、どこが分からないかを明確にしてから行かないと、担当者も時間が限られていますし、ミスリードされないように、聞きたいポイントを絞ってから行くというのが大切です。そのためにも、ちゃんと募集要項を読んで募集要項に書いてあることは聞くべきではないですね。「それ、書いてあるでしょ」ということになってしまうので。
商工会議所と商工会では助成金が異なるので注意しましょう
――商工会議所があるのは、結構大きな市区町村ですよね?
そうですね。主に市の区域が商工会議所、町村の区域が商工会ということのようです。商工会議所と商工会では小規模持続化補助金が別になります。商工会エリアは、商工会エリア用の小規模事業者持続化補助金が実施されます。書類や内容はほぼ同じなのですが、送付先が異なります。募集要項も異なる可能性があるので、商工会エリアの方は再度確認をしてみてください。今回お話したのは商工会議所での持続化補助金です。
――今までの採択率はどれくらいなのでしょうか?
採択率は公表されていません。噂で聞く範囲では、地方創生の流れがあるので首都圏ではなく地方の方が採択率は高いのではないかということです。東京は事業者数も多いので、地方よりも、首都圏の方が結果としては採択率が低くなっているという見方もあります。
――東京の方がこういう情報はおそらく感度が高い人が多いでしょうね。
それもありますし、申請代行をされているような方が多いというのもあると思います。先ほどもお伝えしたように、「採択されること」と「補助金が支払われること」はイコールではありません。私はこの補助金に関しては金額も小さいので、申請代行に依頼して成功報酬を払うよりも、自分で書いた方がいいんじゃないかと思います。
自分たちの計画をしっかりと書いてください
先ほどの申請書類の書き方の話ですが、様式2と様式3に自分たちの計画をしっかりと書く必要があります。様式2で求められている項目は4つあり、「企業概要」「顧客ニーズと市場の動向」「自社や自社の提供する商品・サービスの強み」「経営方針・目標と今後のプラン」です。様式3の方は、補助事業計画書なのでどのような補助事業をやりたいかということを書きます。様式が2と3に分かれているので、ちょっとずれた話を書いてしまう人がいるのですが、様式2と3は密接に関係をしていて、様式2の1.2.3の人が様式3をやって様式2の4を実現しますという話の流れになると思います。様式2と3は「全体が一本のストーリーなんだ」ということを意識して書いていただきたいと思います。あとは、このような書類を書くことに慣れていないという方もいるかもしれないので、中小企業診断士の二次試験の問題文が参考になるのではないかと思います。
――田中さんは中小企業診断士をお持ちですからね。
かれこれ、11年目になりますね。中小企業診断士試験の問題を見てもらうと下の方に二次試験の問題があります(参考URL: https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html)。例えば30年度の「中小企業の診断及び助言に関する実務の事例Ⅰ」だと、弊社は資本金2,500万円、売上約12億円のエレクトロニクスメーカーである。役員を除く従業員数は50名でそのほとんどが正職員である。代表取締役はA氏である。というような、どのような会社かを細かく記述されているので、申請書類の書き方の参考になると思います。項目を細かく書くということに関してはとてもよくできているなと思いますので、慣れていない方はこれをまずは見本にしてみるのもいいかもしれません。また、補助金の審査委員は、中小企業診断士資格を持つ人などがしていることが多いと思うので、そういう意味でもこれくらいの内容、細かさは一つの目安になると思います。情報量として、最低限これくらいものがないと難しいだろうという参考にしていただけたらいいかなと思います。中小企業診断士の試験問題は文字情報だけなので、さらに画像や図、表を入れるということですね。
小規模事業者持続化補助金は1年に1回です
この小規模事業者持続化補助金は、今年は少し遅かったのですが毎年春先にあり、年に1回しかないので、このタイミングを逃すと来年までありません。昨年は3月上旬には情報が出ていたと思うのですが、今年は少し遅かったですね。去年の予算は1次補正で、今年は2次補正というのが理由ではないかと思います。
――採択率は発表されていないということですが、田中さんの感覚としてはどれくらいでしょうか?
完全に個人の推測ですが、首都圏だと4割いかない程度ではないかなと思います。地方だと100%というところもあると聞いたこともあります。色々ポイントなどをお話ししましたが、最終的には募集要項に書かれていることがすべてになるので、しっかりと読みこんで、疑問点があれば必ず事務局に確認していただきたいと思います。事務局の電話番号も書いてあるので、電話対応もしてもらえます。
――小規模事業者持続化補助金について、中小企業診断士で新宿区立高田馬場創業支援センター施設長の田中健一朗さんにお聞きしました。ありがとうございました。
(ご注意)
・募集要項と齟齬がある場合は募集要項を優先してください。
・本記事を見た上で採択されなかった場合でも責任は取れませんことを予めご了承ください。
・申請書類の作成は、申請者の責任において行ってください。
平成30年度の小規模事業者持続化補助金について、田中健一朗さんにお話を伺いました。
30分強のインタビューをさせていただきまして、平成30年度の小規模事業者持続化補助金についてお話をお伺いしましたが、文字に起こしますと、約8千文字になりまして、前編・後編と分けて、記事にさせていただきました。
国や地方自治体のコワーキングスペースに関連する補助金や助成金の情報や、利用者に対する契約書や利用規約の雛形の提供などは、コワーキングスペースを運営する側の事業者の人しか興味関心が無いと思いますので、情報としてはニッチかもしれません。しかしながら、コワーキングスペースの運営側の人にとってはキャッチアップしておくべき情報とも言えます。
今回のお話の小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者のみを対象とした補助金ですが、コワーキングスペースの運営を含めて正社員が5人以下の会社では有効ですし、コワーキングスペースを利用する人もそのような規模の会社もありますから利用者さんに対するアドバイスとしても有意義だと思います。
田中さん、色々とお話いただきまして、ありがとうございました。
一般社団法人コワーキングスペース協会®では、コワーキングスペース業界に関わりのあるコンテンツを今後とも提供していきます。
特に、このような国や地方自治体のコワーキングスペースに関連する補助金や助成金の情報、利用者に対する契約書や利用規約の雛形の提供など、コワーキングスペース運営に関する情報提供も会員向けにしています。
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