コラム

補助金総額9,000万円。東京都の「インキュベーション施設運営計画認定事業」について、中小企業診断士で新宿区立高田馬場創業支援センター施設長の田中健一朗さんにお聞きしました。(前編)


補助金の総額は1施設あたりで最大9,000万円。コワーキングスペースの運営にあたって、大変にインパクトのある東京都の補助金となります。今年で5年目となる、この東京都の「インキュベーション施設運営計画認定事業」の補助金の概要につきまして、運営側の事業者であれば知識としても情報を知っておきたいところです。

そこで、今回は、高田馬場創業支援センター施設長で中小企業診断士でもある田中健一朗さんに、東京都の「インキュベーション施設運営計画認定事業」について、補助金の概要が公表されましたのでお話を伺いました。

今回の「インキュベーション施設運営計画認定事業」の補助金は、総額で最大9,000万円と金額がかなり大きくなっています

施設整備に関して最大5,000万円(補助率は3分の2)。それに加えて、運営費が1年あたり最大2,000万円で2年間。合計9,000万円の東京都の補助金となります。コワーキングスペースを新たに作ったり既存の施設を整備したり運用したりで、それだけの金額があると、大変にインパクトが大きいと思います。

詳細な情報は、「東京都インキュベーション施設運営計画認定事業」の公式ページをご覧ください。
インキュベーション施設運営計画認定事業|中小企業支援|東京都産業労働局
インキュベーション施設運営計画認定事業の募集要項のPDF

この募集要項を前提とした上で、より噛み砕いて分かりやすく田中健一朗さんにお話を伺いました。

田中健一朗さん
中小企業診断士で新宿区立高田馬場創業支援センター施設長の田中健一朗さん

――東京都インキュベーション施設運営計画認定事業ということで、今年で5年目になりますね。コワーキングスペース業界では、盛り上がっています。まずは制度について、教えていただきます。

「東京都インキュベーション施設運営計画認定事業」とは、東京都内にインキュベーション施設をつくるという団体に、東京都が認定を行い、その認定を受けた団体に東京都の外郭団体である東京都中小企業振興公社が施設を整備するための費用と2年間の運営費用を補助するものです。
金額のインパクトが大きく、施設整備に関して最大5,000万円。補助率は3分の2なので、対象経費を7,500万円使ったら5,000万円が補助されます。運営費は1年あたり最大2,000万円。これも同じく補助率は3分の2なので、対象経費を3,000万円支出したら2,000万円が返ってくるということになります。

運営費の補助は2年間続くので、最大9,000万円の補助が受けられる、かなりインパクトのある補助金になっています。

申請資格のある団体は、会社、区市町村、一般社団法人、一般財団法人、公益社団法人、公益財団法人、大学、地方銀行、信用金庫、信用組合、特定非営利活動法人です。個人事業主は不可となっています。

――9,000万円という金額は大きいですね。

そうですね。また、法人格が都内になくても申請可能です。都内にインキュベーション施設をつくるということであれば、その施設に対して補助をするので、都内にある法人でなくてもOKなんです。

申請には、5月31日までに事前予約をする必要

――申請時にはすでに物件が決まっていなくてはいけないということですか?

はい。先日、今年度の具体的な情報が公開されましたが、この補助金に申請するためには、5月14日~5月31日の間に、申請書を提出する日を事前に予約する必要があります。申請書の提出期間は6月24日~7月2日、このタイミングで申請書類を揃えて提出を出すということなんですね。

募集要項によると、認定決定・交付決定が10月下旬から11月上旬となっています。申請する6月24日~7月2日の時点でどの物件でやるかということを決めていて、且つほとんどの方は賃貸物件でされると思いますので、その賃貸物件のオーナーの方から「改修承諾書」にハンコを押してもらわなければなりません。「あなたたちがインキュベーション施設として改修してもいいですよ」という書類ですね。つまり、この「改修承諾書」を書いてもらうためには、一般的には約4ヵ月間物件を押さえておかなくてはならない。ここが、この補助金申請の難しいところです。これはどの補助金に対しても言えることですが、あなたに補助金を交付しますよと決まった日(交付決定日)以降に支出した経費が、原則として補助の対象になります。そのため、採択が決定するまでの4ヵ月間の賃料は補助の対象にならないんです。

――つまり物件を押さえている、賃料も発生している状況で、補助金が出ると決まった11月以降に工事に入るということですね。

そうです。そのためコワーキングスペース運営などの実績がない人が、新規で空きテナントを探してきてやりますというのは、難しい場合が多いと思います。可能性として考えられるのは、現在のスペースの改修や、今あるスペースの同じテナントの中へ一部を増床するというものですね。10月末に今の借家人が撤退するので、11月から借りることができるという非常にラッキーな状況であれば可能かもしれません。

――改修もOKなんですね。現在のスペースのフロアを増やすといったものならビルのオーナーとも話をつけやすくなりますね。

はい。他の可能性としては建築中の建物ですね。これらの条件ならいけるかなと思うのですが、全く新しいスペースを今まで全く関係のないオーナーさんのビルでというのは、4ヵ月間、空家賃を払って耐えしのぐという選択肢もあるかもしれませんが、申請したからと言って必ず採択されるわけではないので、そのリスクを背負って例えば月100万円の家賃を4ヵ月間、400万円を捨ててまでこの補助金を取りにいくか、ということですね。その場合、リスクは結構大きいかなと思います。

東京都内であれば都心に限らず申請可能

――ご自身で空いている不動産物件を所有している方というのはどうですか?

それももちろん可能です。

――東京都内であればどこでもいいということは、例えば、極端ですが八丈島はどうでしょうか?

東京都内であれば、都心に限らず申請することができますので、採択されるかは別にして申請は可能だと思います。ただし、その場合、例えば観光を兼ねたワークスペースや、新しい環境での企業誘致など他のコンセプトと創業支援を一緒にする、というコンセプトが必要かもしれませんね。

過去1年間以上創業支援の実績が必要です

――島は極端かもしれませんが、都心に比べて自然も残っている環境で自分のビルを持っている方が、補助金をきっかけに、自分で創業支援施設を運営するというのもありますね。もちろん3分の1は自己負担なので、その判断がいいのかは置いておいて、ワークスペースを作ることへの敷居は下がりますね。

申請資格に関しては、募集要項をしっかりと確認していただきたいのですが、申請する時点において、「過去1年間以上創業支援の実績を有すること」という条件があります。そのため「ただ不動産物件を持っている」ということだけでは、申請資格がありません。ここでいう創業支援というのは個人的なものではなく、法人・団体として取り組んでいる実績が必要になります。経営者の方が個人的に創業の相談を受けている場合もありますが、それは対象にはなりません。この条件に関しては、コワーキングスペースをされている運営事業者さんなら、例えば金融機関さんの紹介であるとか、融資を受ける際の相談など、創業する方に対してコワーキングスペース(会社)として、色々なサービスをされている場合が多いと思いますので、この条件はクリアできていると思います。もちろん、最終的な判断は東京都がすることになるので断定はできませんが。

――創業支援の実績を証明することは難しいですよね。具体的にどのように証明すればいいのでしょうか?

実際に行った創業支援に関するイベントなどのチラシ、イベント告知サイトなどで、活動実績を証明することができればいいと思います。他にもQ&Aでは「支援対象者・支援対象者の事業内容・支援内容・成果・支援回数・期間」「相談会」などが例示されています。私がおすすめしているのは、日本政策金融公庫さんなどの公的な機関とお付き合いがあれば、連携して「融資の相談会」をやっていますというものです。非常にわかりやすく伝えることができると思います。

――なるほど。他にも、区市町村の創業支援課と一緒にイベントをやったというのはどうでしょうか?

そういうものもプラスになると思います。

――今年で5年目ということですが、今まで何社が助成金の対象となったのでしょうか?

平成30年度まで過去4年間に補助金を受けられる「インキュベーション施設整備・運営費補助事業」の採択実績は28件。団体別では、会社が22、区市町村が2、信用金庫が3、特定非営利活動法人が1となっています。これは東京都中小企業振興公社が扱う補助金の採択数で、東京都の認定は47事業が採択されています。補助金はもらわず、認定だけ受けている施設が19あるということですね。

田中健一朗さん
インタビューに応える田中健一朗さん

認定を受けることで補助金以外にもメリットがあります

――合計するとすごい補助金の金額ですね。一覧を拝見すると、行政の施設も多いようです。あとは、東急不動産さんが平成30年度3ヵ所採択されていますね。

はい。ただし、補助金の支給に関して、大企業は対象とならないです。そのため、東急不動産さんは東京都の認定を受けられていますが、補助金の交付は受けていないと思います。

――補助金は貰えないのに認定を受ける意味はあるのでしょうか?

認定を受けることで東京都と連携している施設になるということですね。他のメリットとしては、採択されているインキュベーション、シェアオフィスの方のみが参加できる交流会あります。それ以外にも東京都のサイトに掲載されます。Webの専門家ではないので、その被リンクの価値はわかりませんが、大手企業だと信頼感もありますよね。このような理由で補助金は支給されなくても申請されるケースもあるようです。つまり、東京都の認定を受けているからと言って、補助金が交付されているかというと、それはイコールではないということです。「東京都の認定」と「東京都中小企業振興公社の補助金交付」の2つの事業になるので、混乱されないようご注意ください。

――台東区や板橋区などの行政区も認定を受けていますが、補助金は受け取っているのでしょうか?

区市町村では荒川区、葛飾区が補助金でも採択されており、他の自治体は東京都の認定を受けただけのようです。ただし行政の場合は金額が2分の1になります。残りの半分は自分のところの予算でやってくださいということですね。

条件が合い申請さえできれば、採択率は高いのでは

――ここまでお話を伺うと結構敷居が高いですね。

確かにそうですね。ただし、敷居は高いですが、その敷居の高さから実際に申請できる人はそんなに多くはないのではないかと思っています。申請までこぎつけることができれば、よほどの瑕疵や申請資格を満たしていないことがなければ、他の補助金に比べると採択される可能性は高いと考えています。繰り返しになりますが、4か月間物件を押さえて、この条件をクリアできる団体は、そんなには多くないと思うのです。

――インキュベーション施設をすでに運営している方や、不動産をお持ちで創業系の活動もされているという方ですね。たまたまタイミングが合って、物件も空いているし申請してみようというようなケースではないでしょうか。

そうかもしれません。あと、この補助金が難しくなるかもしれない他のポイントとして、施設の条件があります。申請時にどのような施設にするかを伝えなければなりません。募集要項の4ページにある「6 審査」に記載があるのですが、現在認められている施設の条件は、一般向けインキュベーション施設、女性向けインキュベーション施設、地域密着型小規模シェアオフィスの3つのパターンです。

このうち最も一般的と思われるのが、一般向けインキュベーション施設です。一般向けインキュベーション施設の必須要件は、個別の貸事務室として供する部屋面積の合計が 50 ㎡以上であること、これはデスクの周りを区切る「ブース」ではなくて、パーティションで区切られた独立した「個室のオフィス」のスペースのことです。さらに1 室当たりの面積は概ね 5 ㎡以上とし、概ね 10 ㎡以上の貸事務室を 1 室以上確保すること。昔は全て10 ㎡以上という縛りがあったのですが、現在の条件になりオフィスレイアウトの自由度は多少高くなりました。

ビルのオーナーとの良好な関係は必須

他の条件として、個別に施錠ができなくてはならない、つまり独立した部屋でなければならないということですね。起業家向けの施設であること、関係法令を遵守した施設であること、認定後1年以内に着工するといった条件もあります。関係法令に関しては、建築基準法や消防法に適合しているかという観点で見られるということなので、例えば極端ですが建物自体が建築基準法を満たしていない場合は、そもそも申請資格を満たさないということになってしまいかねません。

申請書類の中には、不動産オーナーに確認する必要のある内容も項目として含まれていますので、補助金を受けるためにはビルオーナーとの良好な関係性が必要と言えるでしょう。建物に関しては、建築年月や用途地域、容積率、建蔽率、アスベストの有無などの情報を記載する様式が用意されています。

――必須条件の中に、インキュベーションマネージャーの配置が具体的に計画されていることとありますが、インキュベーションマネージャーというのは何か資格ですか?

いいえ、これは試験があるような資格ではありません。創業者を支援するためのスタッフが常駐または定期的に滞在しているということですね。民間の団体でインキュベーションマネージャーの団体もありますが、基本的には誰でも名乗れる肩書です。中小企業診断士や税理士などの資格を持った方もいらっしゃいますが、最近コワーキングスペースの業界でよく聞くようになった「コミュニティマネージャー」と呼ばれる肩書の人たちも要件には該当すると思います。

元々インキュベーション施設は、アメリカのどこかで、大きな建物を持っているオーナーが、貸し手に困って小分けにしてスペースを貸し出した中で、利用者の困りごとを聞いてあげて、解決してあげたり地域の人を紹介してあげたりしたことが成り立ちになっていると聞いたことがあります。コワーキングスペースが増えてきたことで、インキュベーション施設が持っていた本来の機能が注目されるようになるかもしれませんね。

――後編に続きます。
補助金総額9,000万円。東京都の「インキュベーション施設運営計画認定事業」について、中小企業診断士で新宿区立高田馬場創業支援センター施設長の田中健一朗さんにお聞きしました。(後編)

(ご注意)
・募集要項と齟齬がある場合は募集要項を優先してください。
・本記事を見た上で採択されなかった場合でも責任は取れませんことを予めご了承ください。
・申請書類の作成は、申請者の責任において行ってください。

 


 

前半は、平成31年度の東京都インキュベーション施設運営計画認定事業の概要について、お話を伺いました。

後半ではより具体的で深いお話を聞いていきます。
補助金総額9,000万円。東京都の「インキュベーション施設運営計画認定事業」について、中小企業診断士で新宿区立高田馬場創業支援センター施設長の田中健一朗さんにお聞きしました。(後編)

国や地方自治体のコワーキングスペースに関連する補助金や助成金の情報や、利用者に対する契約書や利用規約の雛形の提供などは、コワーキングスペースを運営する側の事業者の人しか興味関心が無いと思いますので、情報としてはニッチかもしれません。しかしながら、コワーキングスペースの運営側の人にとってはキャッチアップしておくべき情報となります。
今回のお話の東京都インキュベーション施設運営計画認定事業につきましても、総額で最大9,000万円の補助金というのは運営側にとって大変なインパクトだと思います。
田中さん、色々とお話いただきまして、ありがとうございました。

 

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特に、このような国や地方自治体のコワーキングスペースに関連する補助金や助成金の情報、利用者に対する契約書や利用規約の雛形の提供など、コワーキングスペース運営に関する情報提供も会員向けにしています。

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