イベント・勉強会レポート

「TENT幕張」を運営するステップチェンジ株式会社代表取締役 松村直輔さんにお話いただきました(第79回コワーキングスペース運営者勉強会®)


ステップチェンジ株式会社が運営する千葉の海浜幕張にあるコワーキングスペース&シェアキッチン「TENT幕張」について、代表取締役 松村直輔さんにお話いただきました。

日時:2021年8月26日(木曜日)19時~21時
場所:TENT幕張(オンライン配信も同時開催)

TENT幕張を運営しているステップチェンジ株式会社代表取締役の松村直輔と申します。本日はよろしくお願いします。

幕張ベイパークは2019年に作られた、まだまだこれからというニュータウンです。そんな街でコワーキングスペースを作ることになった経緯、「住宅地の中でのコワーキングスペース」の運営上の工夫や思いについてお伝えしたいと思います。

ステップチェンジ株式会社について

当社は、「エネルギー分野」と「コミュニティ分野」で街づくりの事業を行っている会社です。具体的にどのような会社かを知っていただくために、ここで「関係性を想像する」ということをしてみたいと思います。

食事が食卓に並んでいます。
その食事は、食卓に並ぶ前はキッチンで作られ、キッチンの前はスーパーに食材があり、その食材は農家さんで作られます。つまり私たちの食卓に並んでいる食事というのは農家さんや流通業者さんの思いを経て並んでいるということです。食事の際、「『いただきます』と言いながら、そのような関係・繋がりを想像しなさい」とよく言われますが、忘れがちですよね。だからこそ、食べ物の好き嫌いや食べ残しなどを生んでいるのだと思います。

もう一つ、電気で考えてみます。
現代はコンセントを挿せば簡単に電気を使うことができますが、コンセントの前には分電盤、変電所、発電所があり、さらに電気を作るためには石炭・石油・LNGなどがあります。それはタンカーで運ばれてきており、その前には油田があります。多くの石油はタンカーで中東から運ばれてきます。日本に1カ月間で入るタンカーの数は100隻、中東から日本までは約3カ月かかりますので常に300隻のタンカーが日本に向かって数珠つなぎになっているということです。その運んできたエネルギー資源を湯水のように使っているということですね。そのように考えると、石油や電気が大切だということをわかっていただけるのではないでしょうか。

当社はこのような「関係性」というものをもう一度皆さんに知っていただき、それを再構築することで気づきが得られ、ライフスタイルを変えることにつながるのではないかという思いで活動をしています。

地域コミュニティは衰退の危機に

地域には、住民コミュニティを支えるいくつかの組織があります。それは、自治会・町内会・小中学校PTA・消防団・商店街・マンション管理組合・社会福祉協議会といった地域コミュニティです。
これらは、共通して衰退の危機にあるという課題を抱えています。よく言われるのは「なり手不足」「関心不足」ですね。

衰退の原因は「日中の住宅地に活発な世代がいない」こと

なぜ文化が発達し、たくさんの人が活発に動く社会がこのような状態になってしまったのか。
その原因は、日中の住宅地に働き手がいないということだと思います。住宅地と働く場所が離れてしまっており、共働きの方が増えていることで、働く一番活発な世代の方が日中住宅地にいません。いないから活性化しない、これは当たり前ですね。

住民コミュニティの高齢化が進んでいる、お金が足りないというのも原因として挙げられます。IT化DX化といわれますが、住民コミュニティでDX化が進んでいるところなんてないですよね。旧来的で非効率なことが多すぎて、意欲のある方が参加したとしても「やってられない」となってしまいがちです。自分の生活が忙しく手一杯で、地域コミュニティ活動に対する重要度や優先度が低いということもあります。このような中、地域の関連性が崩壊していっているというのが現状です。

人と人がつながる仕組み作りが必要

「災害が起こりました。幸い自分は無事です。同じマンションの住人で、助けを求めている人がいます。あなたはその人を助けたいですか」というアンケートをとったことがあります。9割の方は「助けたい」と回答されましたが、助けを必要とされやすい一人暮らしの老人がどこに住んでいるかを把握している人はほとんどいないということが多くあります。助けるためには、どこにだれが住んでいるのか、その人はどんな暮らしをしているのかということを知る必要があります。

当社は主に新築分譲マンションで、ディベロッパーさんやマンションの管理会社さんと一緒に、人々がつながりやすいような関係性を作っていくためのイベントを行っています。新しいマンションができると、マンションの管理組合を作るだけでも大変ですが、自治会を作るのはもっと大変です。そのあたりの支援も行っています。

イベントをすると住民の皆さんは盛り上がって交流が始まります。しかし、1年後に行くとまた元に戻ってしまっています。その時は盛り上がって満足度も高いのですが、すぐに忘れてしまうんですね。やはりそれぞれの生活が忙しく、ご近所とのつながりや地域コミュニティに対するプライオリティがどうしても低くなってしまうんですね。

住宅地の中に「ハブ」となるような「おせっかい」なスペースを作りたい

では、その課題をどうやって解決するか。私は、住宅地にハブのような、おせっかいおばちゃんのような存在が必要だと考えています。そのような人がいることで、それがきっかけとなり、つながりが広がっていくと思います。そのようなおせっかいなスペースができたらいいなというのをずっと考えてきました。

そんな中で、幕張という街に出会いました。駅から徒歩15分、こんな野原に本当に住宅地はできるのかというところからスタートしました。幕張ベイパークは大手企業さんのジョイントベンチャーで作られましたが、当初は提案段階でいくつかの施設を検討していました。その中に当時Fabが流行していたこともあり、「コワーキングスペースとファブカフェを中心とした交流空間を作る」という計画がありました。これが、当社がコワーキングスペース事業を行うことになったきっかけです。

当時は、誰がこんなところでコワーキングスペースをやるのかという状態でした。誰からも手が上がらない状態で、私たちの思いと重なったこともあり、新規事業としてコワーキングスペースの運営に乗り出しました。

街の入口 マンション敷地内の商業施設内に作ったコワーキングスペース

幕張ベイパークには現在はタワーマンションが2棟建っています。商業施設も広がり、体育館もあります。サッカー場やスポーツジムもあり、新しいさまざまな機能が街にできてきています。
街全体は2029年春の完成を目指しており、まだ入口部分しかできておらず奥は更地になっています。TENT幕張は街の入口にあるマンション敷地内の商業施設の中に入っています。

TENT幕張は建物の二階にありますが、今回コワーキングスペース勉強会を開催している一階のこの場所は、街のコミュニティスペースとなっています。いわゆる公民館のような場所で、日中は主婦の方やお子さんもいらっしゃいます。

街の賑わいを測る指標として、「商店の売上高」「街の人口や来街者の数」「空き店舗率」などが挙げられます。これらを高めるためには、「創業が生まれること」「仕事が生まれること」「職住の環境を整えること」が必要です。これができれば、街の人口は減りません。

街の中に働く場所を作ることで、昼間に人が街の外に出ていってしまうという問題は解決できます。職住近接の環境ができれば、昼間の人口が減らず、空き店舗が生まれたとしても創業が生まれ活用できれば、街は常に賑わってくると思います。

TENT幕張のビジョンは「あなたの夢を叶える場」、コンセプトは「みんなで創る、みんなのTENT」

TENT幕張のビジョンは「あなたの夢を叶える場」、コンセプトは「みんなで創る、みんなのTENT」です。

キャンプをする時に、みんなでテントを組み立てて、みんなで料理を作って、みんなでアクティビティをするというところから、TENTのイメージを掛け合わせてこの名前を付けました。もう一つは「幕張」から「幕を張る」イコール単純にテントというところもあります。もう一つ、「点と点をくっつける」という意味もあります。そんな色々な意味を込めたネーミングです。コワーキングスペースというのは、まさに街を活性化させるための機能を備えていると思います。

施設は天井が約4メートルと高く、一面に窓が広がっています。目の前はスポーツジムと体育館になっています。レイアウトは、面積が454㎡137坪です。半個室のようなシェアオフィスが4室会議室が3室ありますが、大半がコワーキングスペースです。コワーキングスペースには、カウンター席、デスク席、ファミレス席(ファミレスのような個室席)、小上がり席(靴を脱いで上がっていただく席)があり、全体で会話OKにしています。静かに仕事をされたい方に向けては、会話不可のお仕事集中エリアを設けています。

他にも、イベントスペースを設けていたのですが、コロナ禍においてイベントができなくなってしまったので、空いているのがもったいないということと、テレワーク需要が高まってきたということもあり、個室ブースに変更して8席運用しています。

システムに関しては、自社ホームページのほか、リクルートさんが提供している予約システム「Airリザーブ」と「Airペイ」「Airレジ」を入れています。根本のCRMや請求書等のシステムは「Zoho」というクラウドサービスのシステムを使っています。セキュリティはスマートロックの「Akerun」を使っています。初めは他のシステムを使っていた部分もありますが、試行錯誤をしながらこちらのシステムに落ち着きました。

TENT幕張では、さまざまなイベントを行ってきました。千葉県の起業家交流会を担当したり、クリスマスパーティを開いたり、女性が集まって勉強会をしたり、子供向けにマネーセミナーを開いたり、コロナ禍でできることは限られていますがやれることはやってきました。その結果、現在のようなたくさんの方が交流するようなスペースになりました。キッチンカーを誘致して、前でお店を開いていただいたこともあります。

シェアキッチンを備えたコワーキングスペース

TENT幕張にはシェアキッチンがあるというのが特徴で、保健所から菓子製造と飲食店営業の許可を取っています。シェアキッチンは、風除室を越えてこないと入れない場所にあります。元々はコワーキングの人たちにランチを提供することを目的として始めました。

シェアキッチンは、飲食店起業検討者の支援、またはコワーキングスペース利用者のランチ提供を目的として運営しています。製造のみで使いたいという方もご利用いただけます。
特徴は、1時間単位で利用できるという点です。時間利用のみなので、自由度が高いというメリットがあります。現在は、約9割は埋まっている状態です。(コロナ禍では夜間利用不可)

シェアキッチンのご利用者様が、うまくハブになっていただいている印象があります。朝から集中して仕事をされていた方が、ランチは息抜きにしゃべりに行くという感じですね。まさにコミュニティマネージャーのような役割をしていただいています。他にも、シェアキッチンを利用されている方がコワーキングスペースでお仕事をされている方に宣伝やチラシ作成を依頼するといったコラボレーションも生まれています。

多くの会員プランで幅広い需要に対応

会員制度は、コワーキング会員・シェアオフィス会員・シェアキッチン会員・登記住所利用会員という形で運営しています。プランは試行錯誤をしながら改善を繰り返しています。現在は、コワーキング会員だけでスタンダードからプレミアムまで11のプランがあります。

ドロップインも受け入れを続けています。始めの緊急事態宣言の際には、千葉県以外からいらっしゃった方のドロップイン受け入れストップ、夜間のストップなどもしていましたが、それ以外は続けています。

オープンからこれまで、たくさんの方がいらっしゃいました。
近隣のフリーランサーの方、近隣の飲食店にお勤めの方のシェアキッチン利用、コロナ禍のテレワーカー、アーティストさんが絵を展示しに来られたりもしています。老後の楽しみを探すような方もいらっしゃいますが、これは住宅地ならではかもしれません。

ホテルのシェフで自分で接客をしたいからとシェアキッチンを使われる方や、住人の方が在宅ワークでオンライン会議の時間帯はここを利用するということもあります。成田空港と東京の両方に近いから幕張を選んでいるという国際的なお仕事をされている方もいらっしゃいます。また、受験生や浪人生もいらっしゃいます。

会員様の住所は2km圏内がほとんどで、交通手段はほぼ歩きか自転車というのも特徴です。

コワーキングスペース内のコミュニティ=地域のコミュニティ

TENT幕張では今後、「街の住民のふんわりした夢を実現する」ということを目標においています。
例えば、住民の方が「公園でマルシェがあればいいのにな」とご相談に来られ、会員様にお声がけしたところ、たくさんの方が出したいといってくださりました。理由としては、集客目的や飲食店をやっているのでもちろん出店したいという方や、ボランティアで協力すると言っていただいた方もいらっしゃいました。

その結果、TENT幕張の会員様だけで約20ブースできました。これは、大きな効果だと思います。これからも、このように住民の方の思いを実現できればいいなと思います。

住宅地のコワーキングスペースということは、つまり働き手世代のワーカーコミュニティが住宅地にあるということです。自分の住む地域であればプロボノ活動をしたいという方もいらっしゃいます。地域問題をビジネスとして解決しようというアイデアや活力を持っているのが住宅地にあるコワーキングスペースの会員様の特徴だと思います。

そのため、そのため、地域のコミュニティ(自治会など)のシステムを作ってあげる、商店街の集客を手伝ってあげるという方もいらっしゃいます。マンション管理組合ではなかなか自分から声を上げにくいのですが、外から良い距離で手伝えるというのもあると思います。

町田市にTENT成瀬をオープン、新たな挑戦を続けています

当社は今年春、TENT成瀬を町田市にオープンしました。
こちらは「UR団地内店舗におけるシェアリングエコノミーを通じたフードサービスを核とする活性化事業に関する提案募集」に採択され、オープンすることになりました。

町田市の築40年の賃貸マンションの足元にコワーキングスペースとシェアキッチン・ボックスショップを併設した店舗で、町田駅と長津田駅に挟まれた住宅街の成瀬駅前に位置しています。マンションの自治会は役員の高齢化や、なり手不足で活動が停滞しています。マンションの広場も数十年使われていないということでした。幕張とは真逆のイメージですね。

ここにコワーキングスペースを作れば、色々なことができると考えました。
コロナの緊急事態宣言下でオープンしているのでやれることに限りがあり、まだできないことが多いですが、「ここでマルシェやっていいですか」という方もいらっしゃいます。コロナの影響でお店が出せなくなった方がシェアキッチンを活用してラーメン屋さんを始めました。その結果、ラーメン屋さんの整理券を求めて朝から列ができるようになりました。

まだまだこれからだと思いますが、このような場所を作って、住宅地の活性化や新しいライフスタイルの提供を行っていきたいと思います。

「コワーキングスペース周辺の住宅地」との関係をどのように作るか

コワーキングスペースを住宅地に作って運営されている方は、同じような考え方をされていると思います。そのような方とも、どんどんつながっていきたいと思います。また都市部でコワーキングスペースを運営されている方は、「施設近辺の住宅地とどのように関係を作っていくと、どう面白くなるのか」という視点も持っていただきたいなと思います。

本日はありがとうございました。


この記事は一般社団法人コワーキングスペース協会が主催するコワーキングスペース運営者勉強会でお話いただいた内容をもとに作成しております。

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