コラム

定年後にコワーキングスペースを開業。
「五反田コワーキングスペース・貸会議室 pao(パオ)」オーナーの鈴木英三さんにお話しいただきました。


JR五反田駅東口より徒歩3分、駅前の賑やかな雰囲気から離れた少し静かな雰囲気の目黒川近くに「五反田コワーキングスペース・貸会議室 pao(パオ)」はあります。ビルのエスカレーターを上がり5階へ。入り口を入るとすぐに、オーナーの鈴木英三さんが迎えてくださいました。

「五反田コワーキングスペースPao」オーナーの鈴木英三さん(左)
「五反田コワーキングスペースpao」オーナーの鈴木英三さん(左)

1日平均30人の利用者さんが訪れるコワーキングスペース。2014年11月にオープンしたpao(パオ)は、ドロップイン利用と月額会員利用ができ、たくさんの利用者さんがいらっしゃいました。スペースのイメージカラーは「黄緑」と言うことで、とても温かみのあるスペースになっています。

黄緑の壁が映える受付
黄緑の壁が映える受付

「自分で創業してみたい」という会社員時代からの夢

オーナーの鈴木英三さんは今年66歳。5年前まで会社員として働かれていました。そんな鈴木さんが定年後にコワーキングスペースを創業した背景には、ご自身の夢と、通い慣れたコワーキングスペースでの体験がありました。

―コワーキングスペースを始められたきっかけは何ですか?

元々は広告代理店で会社員として働いていました。50歳くらいの頃から「自分で創業したい」という思いを持ち始めましたが、仕事が順調だったので、定年退職後の構想は後回しにしてきました。
退職後に向けた活動に本腰を入れ始めたのは、定年少し前の2013年あたりです。元々、渋谷にあった「PoRTAL(ポータル)」というコワーキングスペースによく行っていて、ポータルの雰囲気やサービスは、自分がコワーキングスペースを作る際の基礎になっています。仕事の傍らポータルに通い、政策金融公庫の支援金の申請書類の準備をしたり、起業セミナーに参加したりしていました。

―定年退職後の創業ということですが、どのように創業やpaoさんの開店準備をされたのですか?

行き慣れた渋谷のコワーキングスペース「ポータル」の他にも、都内のさまざまなコワーキングスペースを見学しながら研究していました。2014年にはコワーキングスペース運営者勉強会に初めて参加し、コワーキングスペース創業者の方々の話を参考にオープンの準備を進めました。
場所を五反田にした理由は、自宅から近いからです。物件を見つけ、設計と工事は知り合いの業者に頼みました。スペース内は、自分で塗装をしたり、自分で照明を設置したり、中古の机や椅子を買ったりして出費を抑えました。
paoの運営に関しては、法人化はしておらず個人事業主としてコワーキングスペースや貸会議室の営業を行っています。オープンした時は、コワーキングスペースの運営と会社員を両方やっていたので、「paoを開店し、受付を妻にバトンタッチして夕方退勤後paoに戻る」という生活を1年ほど続けました。
オープン前後のSNSやホームページの活用としては、FacebookやTwitterで呼びかけを行なっていました。オープンが明確になってからホームページを作り、会社に行く前に自分で一つ記事を投稿するようにしていました。

オーナーの鈴木英三さん
オーナーの鈴木英三さん

創業当初から変わらない”会員優先”のスペース運営

―スペースの現在についてお伺いします。どういった客層をターゲットとしていますか?

ターゲット層は30代で創業・起業する人です。自分自身、コワーキングスペースの運営と会社員を両立していた時期がありましたが、自分と同じように「始業前に一度来店し、終業後に再び来店する人」を応援したいですね。最初はコワーキングスペースで作業し、ゆくゆくそれぞれの事務所を持ち独立していく人を支援していきたいと考えています。このことを私は「卒業」と呼んでいます。

―実際の利用者さんにはどのような方が多いですか?

スペース内の広さは50坪、席数は50席のスペースですが、利用者さんは、会員とドロップイン合わせて1日平均30人ほどいらっしゃいます。集中スペース、ワークスペース、ラウンジスペースなどのスペースを用途に合わせてご自由にお使いいただけます。
月額会員の利用者さんは、現在90人ほどいらっしゃいます。pao(パオ)は会員さんに落ち着いた雰囲気で作業していただきたいので、会員として契約できる年齢は大学生以上からとしています。また、ドロップイン料金を少し高めに設定することで、スペース内の雰囲気を一定に保てるように工夫をしています。
また、女性のお客様にも安心して使ってもらいたいです。現在利用者さんの2.5割ほどは女性のお客様です。今後も「女性が使いやすいスペース」を目指していきたいと考えています。

―会員さんの管理・売り上げの管理には、どのようなツールを利用されていますか?

他店のコワーキングスペース運営者の方に聞いた「入退室管理プロ」という入退室管理ソフトを使っています。会員・ドロップイン共に同じ入退室管理システムを使っているため、ドロップインの利用者さんにも登録をお願いしています。
売上管理は、Airレジを使用しています。またお支払い方法として、ドロップインの利用者さんは、現金またはAirペイで処理できるキャッシュレス決済でお支払いいただいています。会員の方は、ペイジェントという決済サービスを利用し、クレジットカードのみの毎月継続課金にてお支払いいただいています。

入口横にある受付
入口横にある受付

―コロナ禍で利用者さんの変化はありましたか?

コロナの影響でドロップイン利用は減りました。しかしその反面、月額会員数は増えました。テレワークが取り入れられた世の中において、コワーキングスペースの需要を感じました。スペースとしては、営業時間中、利用者数が25人になった時点でドロップインの受付を停止しました。50席の席数自体は減らしませんでしたが、併設している会議室をコワーキング利用のためにレイアウト変更して、距離をとって座っていただけるように工夫しました。
また、コロナ禍で利用者の年齢層が若干上がったなという印象を持ちました。企業の事務所を閉鎖して従業員に利用させているという方もいました。そういった方々は、社員が複数人でスペースに集まって仕事をするという利用はあまりなく、例えば社長のみ利用して、他の社員はテレワークでオンライン会議、というように新しい利用形態を見ることが出来ました。

利用者の仕事が捗るための備品

―スペース内の設備や備品で工夫されていることはありますか?

スペース内は、落ち着いた雰囲気を出すことで、利用者さんが仕事に集中できる環境を整えるようにしています。スペース内に常備している備品は、まず、モニターが13台あります。32型、27型、24型と、大きいサイズも用意しています。IT関係のお仕事をされている利用者さんが多いので、その方達には喜んでいただけていると思います。
プリンターは、会員・ドロップイン問わず、インクジェットであれば1日20枚まで無料で印刷することができるようにしています。20枚以上利用される場合は有料になります。複合機を使ったコピー・印刷・FAXは、会員の方には1人ずつIDを付与していて、その記録を元に月ごとに支払っていただくシステムを導入しています。

複合機

また、スペース内に「コーヒーを飲める場所」を設けているところも工夫しています。これは、自分の原点である渋谷のコワーキングスペース「ポータル」のサービスを参考にしたものです。そこでは、1日に1回ティータイムがあり、時間になるとコーヒーをサービスしてくれました。コーヒーを飲みながら利用者同士が交流したり意見交換をしたりした自身の経験を、自分のコワーキングスペースでも取り入れたいと思い、スペースを作る際は水回りを整えてラウンジスペースを設けることをマストで行いました。

会員さんの”卒業”をこれからも支援していきたい

―今後、どのような活動、サービスを展開していきたいとお考えですか?

今、ビルの5階でコワーキングスペースを運営していますが、可能であれば同ビル内にシェアオフィスを作りたいと考えています。利用者さんが始めた小さな事業が段々と成長して、このコワーキングスペースを卒業することになった時などに、そのままシェアオフィスに移ってもらえるような体制を整えたいです。利用者さんのステージの変化に対応し、最後まで自分がフォロー出来る体制を作っていきたいと思います。

―これからコワーキングスペースの運営を始めようとしている人にアドバイスをお願いします!

私はコワーキングスペースを始める際、コワーキングスペース業界の人脈はゼロでした。さまざまなコワーキングスペースを見学しに行ったり、コワーキングスペース運営者勉強会に参加したりする中で、他店の創業者の方々の話を伺うことができ、創業を実現することが出来ました
アドバイスとしては「先人に聞くべし!」に尽きます。一般社団法人コワーキングスペース協会にも是非入ってください。

とても優しく温かい雰囲気のオーナーのもと、会員さんのことを最優先に考えて作られた五反田コワーキングスペース・貸会議室 pao(パオ)。これからもたくさんの創業者の「卒業」を後押しするコワーキングスペースになっていくことでしょう。

「五反田コワーキングスペース・貸会議室 pao(パオ)」基本情報

住所東京都品川区東五反田2丁目8−5 KNビル5階
アクセスJR五反田駅:東口徒歩3分
月額料金5,000~15,000円(税別)
ドロップイン料金1時間:500円
1日(平日):2,000円
  (土日):1,500円
座席数50席
固定席の有無あり
営業時間・定休日平日9時~22時 土日祝10時~18時
年末年始は休業
URLhttps://pa-o.jp
備考同施設内に貸会議室を併設
住所利用・登記住所利用も可