イベント・勉強会レポート

「蒲田のシェアスペース おおたfab」を運営するスマイルリンク株式会社 代表取締役社長 大林マリコさんにお話いただきました。(第77回コワーキングスペース運営者勉強会®)


スマイルリンク株式会社が運営するコワーキングスペース「蒲田のシェアスペース おおたfab」について代表取締役社長 大林マリコさんにお話いただきました。

日時:2021年5月19日(水曜日)19時~21時
場所:蒲田のシェアスペース おおたfab(オンライン配信も同時開催)

「おおたfab(ファブ)」の大林と申します。本日は、第77回コワーキングスペース運営者勉強会ということで、蒲田駅西口2分の仕事と趣味のシェアスペース「おおたfab」についてお話します。「おおたfab」をどんな思いで作ってきたのか、これまでどんなことをやってきたのか等についてお話したいと思います。よろしくお願いします。

コワーキングスペースとFabLabの物づくりスペースを併設したのが「おおたfab」

「おおたfab」はJR蒲田駅鎌田西口すぐに位置しており、ビルの6階にあります。世界的な市民工房であるFabLab(ファブラボ)の一員です。FabLabとは、デジタルからアナログまでの多様な工作機械を備えた実験的な市民工房のネットワークで、現在日本に約20か所、世界では2000か所以上あるといわれています。

「おおたfab」はコワーキングスペースとFabLabの物づくりスペースを併設しています。子供向けのロボットプログラミング教室も開いており、子供OKというのも特徴の一つです。大人が作業をしていて子供がそれを見ているのもよく見られる光景です。コワーキングスペースの月額料金が4,400円(税別)~となっており、ご利用いただく時間帯や内容によってさまざまな料金プランを設けています。

退職後3Dプリンタを作り、産学連携施設にてFabLabをスタート

私がなぜ「おおたfab」を運営するようになったのか、経緯をお伝えします。

私は大学を卒業してからキヤノン㈱という会社で長く働いていました。2012年退社した後は、雑貨を作ったり、特許を取ったり、文房具を作ったりしていました。色々なご縁があり、2013年に3Dプリンタを作る機会がありました。3Dプリンタは私ともう一社さんと一緒に開発をして、販売することになりました。

3Dプリンタを作ったものの、「3Dプリンタを買ってください」といっても、誰もあまりピンと来ませんよね。それなら、「使ってもらう施設があった方がいいのではないか」ということで、3Dプリンタを使える施設を作ることにしました。場所は、梅屋敷という蒲田の反対側、京急蒲田という現在の「おおたfab」のある場所から歩いて20分くらいところです。

大田区はモノづくりに関して優遇がある自治体で、旧小学校の教室を低価格で貸りられる産学連携施設を利用し、2015年に「市民工房おおたfab 」としてFabLabをスタートしました。FabLabでは、私たちが作った3Dプリンタだけでなく、レーザーカッター、UVプリンタ等を設置して、モノづくり施設として運営していました。

スペースが狭くなり現在の場所へ移転 
コワーキングスペースを併設して「おおたfab」が生まれました

その後、教室1部屋だとスペースが狭いので、2017年に現在の場所に移転し、その際にコワーキングスペースを併設し「おおたfab」となりました。私個人として、退職してすぐの頃は、お台場にあるコワーキングスペースに入居していたので、体感としてコワーキングスペースがどのようなものか知っていました。

2021年には、「おおたfab」内に皆さんの作品等を並べたセレクトショップ・シェア型の本屋さん等も始めました。「蒲田コワーキングスペース おおたfab」というYouTubeもやっています。全てのことが初めてだったので、失敗しながら試行錯誤を繰り返しやってきた中で、このようなさまざまな取り組みをしています。

私個人としては、3Dプリンタを作っているということもあり、大田区の将来像等検討委員やJISの委員等、色々なことをやらせていただいています。

「なぜめぐり会うのかを」という「糸」という歌のワンフレーズがありますが、人とめぐり合うのは、学校や会社等、既存のコミュニティの中であることが多いと思います。「おおたfab」は、そのような既存の流れが「縦糸」だとすると、「横糸」のような存在でありたいと思っています。「そうやって交わることで面白いことが起こるのかな」という思いが心の中にあったということも、「おおたfab」を作ったきっかけの一つです。

FanLabは会員制、都内最多の3Dプリンタを15台完備

「おおたfab」についてご紹介します。面積は200㎡以上で広々としていて、窓が色々な方向にあるので昼間はとても明るいです。窓が多いので、コロナ禍においても換気の面では安心してご利用いただけると思います。コワーキングスペースは、フリードリンクで、リモート会議のスペースもあります。登記が可能となっており、ドロップインのご利用は1時間450円~となっています。

一角には、都内最多の3Dプリンタを15台完備しているモノづくりスペースFanLab(デジタル工房)がありますが、こちらはコワーキングスペースとは別で会員制になっています。3Dプリンタの他、レーザーカッター、UVプリンタもあり、デジタル工房としては一通りの設備が揃っています。

多種多様なイベントも積極的に開催

「おおたfab」は、「参加型実験スペース」と名付けており、「おおたFab交差点」というフリーペーパーも発行しています。そこにも記載しているのですが、特徴はイベントです。開催しているイベントには、近くに住んでいる小説家の先生による文章教室、3Dプリンタの講座、電子工作、商品化クラブ等、多種多様なものがあります。

「協力しあうコミュニティ」ということで、素人ロボット活動として、ロボットについて知っている人と知らない人が共同で月1回活動を行っています。他にも、古いルンバをヤフオク等で調達して、分解して動かそうというイベントも行っています。バックグラウンドの違うメンバーがみんなで活動しています。

イベントは「おおたfab」のご利用者に限らず、どなたでもご参加いただけます。LINEで友だち登録をしていただくと、月に一度イベント情報が届きます。興味がある方は、ぜひ登録して参加してみてください。

「おおたfab」から生まれる新たな商品

他にも、「おおたfab」では、メンバーによってさまざまな商品が生み出されています。その一部をご紹介します。

「FUKU助」という製品は、大田区のビジネスプランコンテストで最優秀賞、東京都のコンペティションで東京都ベンチャー技術優秀賞を受賞しています。これは日本の高齢化社会に備えて、薬の飲み忘れを防止するため開発された薬を出す機械です。決まった時間になると自動で引き出しから薬がでてきて、「忘れずに飲んでくださいね」という音声がなります。また、きちんと忘れずに飲んだかという記録が残ります。お医者さんとしても、薬を飲んで効いていないのか、きちんと飲めていないか効いていないかを判断する手段になります。開発時は、3Dプリンタを使用して作成しました。

水滴が下から浮き上がって見える仕組みのアロマディフューザー「Undrop(アンドロップ)」も、おおたfabのメンバーが制作しました。これは現在クラウドファンディングの準備中なので、興味のある方はぜひご協力ください。

その他、「オフィスde栽培」という自動水やりシステムがあります。ここに置いている植物には、自動で水をやっています。「富士山の砂礫」といういわゆる礫(つぶて)を使用しており、水はけもよく商品化できるのではないかということで、開発をしています。時期よってはミニトマトが毎日採れるなど、子供たちも楽しんでくれていました。これも引き続き行っています。

このように多くの商品がここから生まれるのは、もちろん利用者様がここで制作活動を行っているからですが、「おおたfab」としては、利用者さんが商品を生み出すのを応援したり共有したりするイベントを行っています。

例えば、「FUKU助」は薬を入れる紙パックを中に入れる仕組みになっているのですが、その開発をどのようなスケジュールで行ったのか、どのような試作を行ったか等のストーリーを、定期的に共有していました。開発に関する課題に対して意見をやり取りする場を設けるなど、商品開発を応援してきました。

2021年から「おおたfab」にはショップを併設しており、色んな方に出品していただいています。コロナ禍で展示会やイベント等の機会が減っているということもあり、作品発表の場としても活用いただいています。例えば、学生がアクセサリーを作ったり、普段はSEをされている方が作った作品を並べたり、そのような販売の機会を提供しています。

コロナ禍ではストップしていますが、Maker Faire(メイカーフェア)に「おおたfab」として出展したこともあります。1日10万円くらい売り上げみんなで盛り上がったり、その後に振り返り会を行ったりしました。みなさん所属する会社もバックグラウンドも違う方ばかりですが、このように一緒に活動をしています。

コロナ禍でも皆が楽しめる新たな企画も

ショップ同様、2021年から始めたのが、「みんなが店長 本屋さん」というシェア型の本屋さんです。シェア型本屋さんは今たくさんありますが、一つのハコを借りていただいて、そのスペースで本を売っていただくというものです。一番売れているのは「まいりすブックス」さんで、小学3年生が店長として本をセレクトして並べています。売上は彼女のお小遣いになるそうです。その他にも、学習塾の先生がおすすめの本を並べているハコや、文章教室にもご協力いただいている小説家の先生の本や、我々が作っている同人誌等も並べています。ルンバを作った方もモノづくりのお手伝いをして下さっており、その方の本も並んでいます。

先ほどご紹介した同人誌も発行しており現在第4号を準備中です。始めは私が編集をしていましたが、第2号からはメンバーのデザイナーさんにご協力いただき、見違えるようにいい本になりました。小説家の先生にもご協力いただき、どんどん盛り上がって素敵に進化しています。自分たちで印刷して作っている簡単なものですが、私を含めメンバーの活動のアクセントになっています。

Kindle出版の勉強会も開いており、ここから10冊以上の本が生まれました。私も3Dプリンタを作った話や、自分の商品を作ってみようという本を書きました。勉強会に参加された著者の方には、Amazonからの購入よりKindleからの収入の方が多いという方もいらっしゃって、会員である意味をすごく感じていただけるので嬉しいですね。Kindleでは2021年5月現在、「おおたfab文庫」として11冊が出版されています。どれも面白い本ばかりなのでぜひご覧ください。

IoT実用化研究会として、顔認証システムを検証

コロナ禍ではお休みしていますが、受付ではIoT実用化研究会が、顔認証システムを入れて試していました。IoTはしばらく前から注目されていますが、「どうやって、どこまで実用するのか」という点が難しかったと思います。それを実際に安くうまくやる方法にはどういう方法がいいだろうということで、検証をしていました。

具体的には、顔を登録している人が受付でボタンを押すと、認識してメールが来るようなシステムになっています。カギと組み合わせる等色々な方法があると思いますが、まずはこの仕組みでやってみていました。

その他、「モノレールinおおたfab」ということで、Fabスペースではモノレールが走っています。既存のプラレールや100円均一のプラレールを使用して、既存のものと3Dプリンタで作ったものを組み合わせながら、時間になったら回るようにしたり、カメラを付けてみたりしています。「普通のプラレールだと線路で遮られて下が見えないのでモノレールにしたらいいんじゃないか」等、いろんな意見を取り入れながら設置しています。

「電車時計」というものもあり、毎時1時間ごとに時間をお知らせして走っています。これも3Dプリンタやレーザーカッター等を組み合わせて制作しました。

重要なのは、3つが重なる真ん中の部分だと考えています

このようにさまざまな活動を行っていますが、活動の核となるのは「コワーキングスペース」「FabLab」「ロボットプログラミング教室」の3つが重なる真ん中の部分だと考えています。ロボットプログラミング教室のお子さんが本屋さんをやっていたり、コワーキングスペースのメンバーの方が一緒にイベントをやってくれたり、参加する分野をまたいで活動をしてくださる方がたくさんいらっしゃいます。

「おおたfab」の活動は、子供から大人まで、仕事なのか生活を豊かにする目的なのかという軸で考えても、色んな分野に広がっています。効率という意味ではよくないのかもしれませんが、色々な方が混じって色々なことをやっているのが実態です。始めは自分の領域で参加され、それに慣れてくると領域をまたいで違うことにチャレンジされる方がたくさんいらっしゃいます。メンバーみんなで協力しながらここまでやってきて、今の形になっています。

SNSもやっているので興味がある方は登録していただき、ぜひ一緒に実験しましょう。まだまだ、皆さまとやれることがあると思っています。


この記事は一般社団法人コワーキングスペース協会が主催するコワーキングスペース運営者勉強会でお話いただいた内容をもとに作成しております。

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