コラム

株式会社スロウが運営するコワーキングスペース「ロバート下北沢」について、オーナーの原大輔さんにお話いただきました。


リニューアルされたばかりの下北沢駅東口から歩くことおよそ1分。下北沢らしい雑多な雰囲気の中、小さなお店が多く並ぶ街並みに、コワーキングスペース「ロバート下北沢」はあります。

「ロバート下北沢」オーナーの原大輔さん(右)

今回は、2020年7月2日にオープンしたコワーキングスペース「ロバート下北沢」を訪問し、オーナーの原大輔さんからコワーキングスペースを作った理由、設立時の苦労や工夫、そして下北沢という街に「ロバート下北沢」というスペースが存在する意味について伺いました。

ロバート下北沢のロゴマーク

「ロバート下北沢」の看板の横を抜け、3階に上がると、フクロウのようなロゴマークが私たちを出迎えます。このマークの意味を「フクロウは知恵の象徴で、そこにロバートのRを合わせました」と原さん。実際にフクロウはギリシャ神話で「アテナ」という知恵を司る女神の肩に止まっていることから知恵の象徴とされているそうです。

入り口を通り抜けると現れるのがシンプルでお洒落なスペース。一番に目に付くのは、カラフルなクッションが置かれたCHILL SPACEと呼ばれるソファ席。今回はここで原さんのお話を伺います。

「ロバート下北沢」を運営するのはデザイン会社

「ロバート下北沢」はデザインを主に扱う株式会社スロウが運営するコワーキングスペース。

スロウは、僕が立ち上げた会社です。主に、雑誌や本、企業さんのパンフレット、ショッピングモールなどのポスターやチラシを作成しています。

今回お話を伺った原大輔さんはその株式会社スロウの代表を務められています。原さんは大学卒業後、フリーランスとして活動したのち、東京・下北沢に株式会社スロウを設立しました。4年前には、佐賀県にFountain Mountainというカフェを開くなど活躍の場所を広げています。その後、地元の方にカフェの権利を移譲し、株式会社スロウのオフィス移転が決まったことをきっかけに空いたスペースをリノベージョンし、「ロバート下北沢」の設立を決めたそうです。

ただ働く場所ではなく人が集まる場所を作りたかった

まず初めにお聞きしたのは、どうしてコワーキングスペースを作ったのかということ。原さんは「ロバート下北沢」のnoteでも公開しているように、4年ほど前に佐賀県でカフェをオープンさせています。そのノウハウや下北沢という街の特性を考えれば、カフェを作るという選択肢もあったのではないでしょうか。

正直思いつきでもありました。佐賀でカフェをやった時は、場所が田舎町であることもあり、人が集う場所が少ないという印象があり、色々リサーチしていくうちに、カフェというものが一番合っているのではないかという結論に至ったのです。
一方、下北沢ではデザイン会社の新しい物件が見つかったために引っ越しをすることになりました。そこで下北沢のこの部屋が空いてしまうので、何かできないかと思い、「人が集まる場所を作りたい」という思いがまず真っ先に浮かびました。
人が集まる場所は、情報や仕事が集まってくるものなのでコワーキングスペースが候補に上がったのですが、ただ働く場所ではなく人が集まる場所を作りたかったので、本当はコワーキングスペースではなくてもよかったというのもあります。
しかし、コスト的な部分もあり、もともと僕らが働いていた場所でレイアウトを大きく変更しなくて良いということもあって、コワーキングスペースにすることが一番良いのではないということになりました。それこそ、当時は下北沢にコワーキングスペースは少なかったのと、立地的にも駅から近いというメリットがあるのだから、作っても良いかと思い始めたというのが経緯ですね。

ロバート下北沢オーナーの原大輔氏

というように答えは意外なものでした。

コワーキングスペースは今二つのタイプがあると考えていて、一つは良い仕事をするためのスペースで、もう一つは、僕らのような少しサロンのような要素を持ったスペースです。これからはもっとはっきり分かれていくと考えています。
もちろん、前者のようなスペースの需要は高まってきていて、これからも需要は高まるばかりだと思います。しかし、サロン的なスペースがあることによって、働くということの中にも色々な個性が生まれてくるのではないでしょうか。

原さんの思いは「ロバート下北沢」の『遊びながら働く、働きながら遊ぶ』というコンセプトにはっきりと現れているでしょう。

おすすめポイントはCHILL SPACE

「ロバート下北沢」の最もおすすめするポイントはどこですかという問いには「CHILL SPACE(ソファ席)です」と即答。

CHILL SPACE

ロバート下北沢には大きく分けて5つのスペースがあります。

インタビューをさせていただいたゆったりとくつろげるCHILL SPACE、少し高い椅子と机で1人1人のスペースが区切られた窓際の集中SPACE、大きな8人掛けの長机と3つの丸テーブルがあるLOUNGE SPACE、一人ひとりの空間が完全に板で区切られた固定席の会員専用SPACE、フリードリンクと小さなキッチンのあるSNACK SPACEの5つです。
それに加えてもちろん、トイレとロッカーも常設。広さはおよそ45坪です。
CHILL SPACEを除いて全てのスペースにコンセントがあります。また、会員だけでなく、ドロップインで利用することもできるスペースです。

スペースに入り、私たちが一番最初に感じるのは洗練された雰囲気ではないでしょうか。さすが元デザイン会社のオフィスという感じもしますが、特にCHILL SPACEで目に付くのが蔵書の種類です。マンガもあれば、小説もあり、一般的なコワーキングスペースとはまた異なるラインナップです。

蔵書はほとんど僕が読んでいる本です。あとは人からもらった本ですかね。どちらかというと、クリエイティブというのは人のために考えるものなので、人と人との繋がりに関して考える本が多いですね。デザインのイロハのような本は置いてないです。

多様な種類の蔵書

オープンから数ヶ月経つこちらのスペースにはすでに原さんの考えが隅々に行き届いています。しかし、原さん当人は「まだまだプレオープンの気持ちでいる」と今後の変化にも意気込みを見せます。

今クリエイティブなことをやりたい人たちを応援したい

そもそも「ロバート下北沢」を運営するのは原さんが設立したデザイン会社です。現在は大手企業もコワーキングスペース業界に参入してきている中で、デザイン会社がコワーキングスペースを運営する意義についてお聞きしてみました。

最近デザインやクリエイティブという言葉が多用されてしまっていて、それはあまり良い状況ではありません。間違って捉えられてしまっていることも多いです。
クリエイティブというのは人のために何かを作るということです。実際に僕らはクリエイティブなことを今までやってきて、今クリエイティブなことをやりたい人たちを応援したいなと思いました。僕らがただデザインの仕事をするだけでなくて、そろそろ会社のためだけでなく社会に対してクリエイティブで還元したいと思うようになったというのが、このコワーキングスペースを作った経緯ですね。

今まで気づかなかった良いものを再発見できる『東京ローカル』

今原さんが注目しているのは「東京ローカル」だと言います。聞き慣れない言葉ですが、「ロバート下北沢」のある下北沢も「東京ローカル」の一つだそう。「東京ローカル」とは具体的にどのような概念なのでしょうか。

「ローカル」という言葉は、どうしても都心に対する地方のことだと思われがちで、東京を「ローカル」と表すことは少ないです。
しかし、僕はこれから「東京ローカル」というものがとても重要になってくると考えています。ローカルとは直訳すると、「その土地」という意味で、多くの人がそれを「地方」と間違えて捉えているでしょう。しかし、現在コロナ禍で都心部に行くことは敬遠されがちになり、これからは、自分の住む地域から半径数キロメートルの距離の街に目を向け始めます。そうすると、今まで気づかなかった良いものを再発見できるのではないでしょうか。これが「東京ローカル」です。これは下北沢だけでなく、吉祥寺や国立などの地域にも言えます。さらに、それに伴いよりローカルに根付いたスペースというものが重要になってくると思います。これを僕は勝手に「ローカルコワーキング」と呼んでいるのですが(笑)。そこで下北沢らしさという色を出していくことが僕らの目指したいことです。

東京ローカルを語る原さん

何が求められているのか今はまだわかりません

ここからは「ロバート下北沢」設立当時についてお話を伺っていきます。コロナ禍という誰も経験したことがない状況の中で新たな事業に挑戦した「ロバート下北沢」。当初は2019年秋までににはオープンさせるつもりだったと原さんは話します。

佐賀のカフェを人に渡そうとしていた2019年の夏頃に、東京のデザイン会社の引越しが決まったこともあり、本当は2019年の秋口にはロバート下北沢をオープンさせようとしていたのですが、東京のデザイン会社の移転先の工事が全く進んでおらず、ずっと引っ張られていました。そうしたら今度はコロナになってしまって、動くに動けなくなってしまいました。

スペースを作る上で一番大変だったことを振り返っていただくと、やはりコロナ禍という異常事態だからこその答えが返ってきました。

やっぱり工事が進まないことですかね。やはりコロナ禍中で始まったということもありますが、元々僕らの会社が使っていたスペースであったので、ある程度はその頃のものを使用しているものの、少し工事をしたい場合でも業者さんが中々見つからないことで苦労はしました。結構そこは焦りましたね。
あとは、コワーキングスペースに何が必要かということがわかりませんでした。例えば、コピー機であったり、フリードリンクのシステムだったり、コワーキングスペース業界に関して全く経験がなかったので、そこは大変でした。

集客方法についてもコワーキングスペースという業種ならではの特性と悩みがあるといいます。

集客方法に関しては、初めにTwitter、Facebook、Instagramをやりました。今もこれらは継続してやっていますが、はっきり言ってInstagramはあんまり効果がありませんでした。というのも、Instagramは写真映えするものにとって効果があるSNSなので、一般的なコワーキングスペースには不向きだと思います。
あとはGoogleマイビジネスを一番使っていますね。それ以外に集客の方法がイマイチわかりません。それはなぜかというのも、この業界はモノを売っていないからです。これがすごく難しく、悩みどころです。人の心を動かすことなので、ある意味広告に近いのですが、何が求められているのか今はまだわかりません。
だからこそ、僕のコアをしっかり立ち上げて、どのような人たちに利用して欲しいかというメッセージを僕らが伝えていかなければならないと思います。こういうところもコワーキングスペース協会さん教えてくださいという感じで(笑)。

一般社団法人コワーキングスペース協会では2013年から、コワーキングスペースの運営について話し合う「コワーキングスペース運営者勉強会」を定期開催しています。コワーキングスペース運営の良い点や悩み事などの情報共有を行っています。ご興味のある方は是非ご参加ください。

勤怠管理とレジツールのお話

通常スペースにいるスタッフさんは一人。そのスタッフさんも、スペースの管理をしながら本業のライターの仕事をスペース内で行っているそうです。勤怠管理システムとレジツールには、佐賀県でカフェを経営していたときの経験が生きています。

勤怠管理システムには、Airレジの「レジ担当者を登録」という機能を利用しています。これは佐賀のカフェでも使っていたもので、当時僕は東京と佐賀を行き来していたのですが、佐賀にいなくても誰が働いているのかわかるようにしていました。その機能を今もそのまま使用しています。

しかし、レジツールに関してはカフェの反省が生かされているようで、「ロバート下北沢」はすべてキャッシュレス決済

基本的に会員さんの支払いにはSquareというツールを使っています。理由は、カード決済を原則としているからです。一方、ドロップインの方の支払いや会員さんに提供するアイスコーヒーのカップとコーヒー代など、いわゆる小口と言われるお金に関してはAirレジを使用しています。それはカード決済ではなく、Suicaでタッチするだけで支払いができた方が楽だからです。
僕らは基本現金を扱っていません。それこそカフェの反省で、佐賀のカフェでは現金を使っていたのですが毎回レジを締める時に1円や2円の誤差が出るんですよ(笑)。その反省を生かして、現金は使用不可で、AirレジとSquareの二つのレジツールを使用しています。

人が集まれて、情報交換ができて、何か生まれてくれればいい

最後に今後の展望についてお聞きしました。

より「ローカルコワーキング」とは何かということを突き詰めて考えた時に、SNACK SPACEをシェアキッチンとして貸すことを考えています。
働くだけの場所としてのコワーキングスペースという位置付けが、僕の中でモヤモヤしていたのですが、今そのモヤモヤが解消されつつあリます。オープン当初から利用してくださる方などを見ていて、このスペースはコワーキングをする場所でもあるけど、コワーキングをしない場所でもあるというような形になるのではないかなと思いました。いろんなものが複合的にあるという形ですかね。そこで人が集まれて、情報交換ができて、何か生まれてくれればいいかなと。

ロバート下北沢のSNACK SPACE

次世代のコワーキングスペースとして成長が期待される「ロバート下北沢」。今後「東京ローカル」という言葉と共に全国に知れ渡っていくかもしれません。

「ロバート下北沢」基本情報

住所東京都世田谷区北沢2-30-14 重宗ビル3F
アクセス小田急線・京王井の頭線 下北沢駅:東口徒歩1分
月額料金24,000円~
ドロップイン料金1日:2,000円
座席数40席
固定席の有無あり
営業時間・定休日営業時間:7:00~23:00 ドロップインは10:00-19:00
定休日:なし (年末年始は休み、ドロップインは土日祝利用不可)
URLhttps://www.robert.jp/