コラム

東京都杉並区「コワーキングスペース永福」を運営している生活クラブ生活協同組合・東京様へのインタビュー


取材日時:2019年6月17日14時
取材場所:コワーキングスペース永福

本日は、2019年1月にオープンしたコワーキングスペース永福を運営されている生活クラブ生活協同組合・東京デポー事業部部長の山本さんとコワーキングスペース永福スタッフのリーダーの脇田さんにお話を伺います。

「コワーキングスペース永福」を運営している生活クラブ生活協同組合・東京の山本さんと脇田さん

店舗の2階スペースをどう活用しようか?その中で出てきたのが「コワーキングスペース」

――生協がコワーキングスペースを運営するという事例は国内で初めてと認識していますが、運営することになった経緯を教えてください。

山本さん:このあたりにデポーという生活クラブのおいしい、こだわりの食材が購入できる店舗を立ち上げたいということで、2年くらい物件を探していた中、2018年3〜4月頃に、この東京都杉並区の永福町駅近くの建物の紹介がありました。そして、この1階で店舗(デポー)をやろうと決まったのですが、3階建てであまりに広いスペースなので2階をどうやって使うかということを随分と検討しました。色々な案もあった中、まずは第一に候補として検討をしたのが、小規模保育事業としての保育園です。ただ、杉並区の待機児童ゼロということで、行政の協力を得られない中での小規模保育は断念しました。それなら50坪強あるスペースをどうやって活用していこうか?と色々なことを調査していく中で出てきたのが「コワーキング」というキーワードです。そこから調査を始め、今に至っています。

「FEC+W」を、地域の中で供給したいという想いがありました。

――色んな候補があった中、コワーキングスペースを選んだ決め手は何でしたでしょうか?

山本さん:コワーキングスペースという空間を提供したり、色んな人と人の繋がりをコーディネートするという事業は、調べた限りでは、どこの生協もやっていませんでした。生活クラブ生協の根本にある考え方は「FEC(Food、Energy、Care)」つまり、食べ物やエネルギーや福祉というものを自給できるようにしようことです。そこに更に、「働く(Work)」という事を地域の中でつなぎ合わせて行きたい。つまり、「FEC(Food、Energy、Care)+W(Work)」というものが地域のなかで自給できれば良いね、という考え方が根本にありました。その考えに基づいてコワーキングスペースということを考えた時に、多様な働き方があって、その人達に空間提供ができて、しかも利用者が何らかの形で繋がりあえたら、新しい物ができるのではないか、更には地域の活性化に繋がってくるのではないかと。このような経緯で、コワーキングスペースという事業を選択しました。

コワーキングスペース永福の外観。1階には運営会社である生活クラブ生活協同組合・東京の「デポー」が入っている。

空間提供だけでなく、色んな働き方をする方々が繋がりあえる場所へ

――計画当初は具体的なコンセプトはありましたか?

山本さん:空間提供だけではなく、働く女性やママやパパに使ってもらいたいと考えていました。そのため子どもの一時預かりサービスも提供したいと考えていましたが、建物構造上なかなかそのスペースを広げることが出来なくて苦労しました。ですが、そういうコンセプトを明確に出していきたいと考えていました。他にも、色々な働き方をする方々が繋がり合えるような場所にしたいと考えていましたが、具体的なことは進めていく中で探っていきましょうという感じでしたね。

――コワーキングスペースを生協として運営することに対して、反対意見などはありませんでしたか?

山本さん:今だから言えることですが、反対論もありました。なんで生協がそこまでやるの?生活クラブがやるの?事業計画はどうなのか?というような様々な意見がありました。生活クラブは、安全で確かな食材の組合員への提供、再生エネルギーの共同購入、助け合いを自分達で作っていこうなどといった事業をしているのに、なぜコワーキングスペースのような転貸や場所貸しに該当するような事業をやるのか?というような辛辣な意見もいただきました。ですが、議論を重ねながら、ここまで来たという経緯があります。

生活クラブ生活協同組合・東京の山本さん

一般社団法人コワーキングスペース協会®代表理事の星野さんとの出会いの中で、色々な発見がありました。

――立ち上げにあたって一般社団法人コワーキングスペース協会®にコンサルティングのご依頼を頂いて、実際に現在もコンサルティング期間中ですが、このようなご依頼を当協会に頂いた経緯を教えてください。

山本さん:まずコワーキングというキーワードで、チームを作ってコワーキングスペースに実際に見学に行き調査をしました。地元の杉並で女性が運営されているワーキングスペースも行きましたし、本格的に働く女性と子育てをマッチングしているところにも行きました。その中で、うちの役員から、子育てはもちろんだが、コワーキングスペースの運営自体を収益を上げてしっかりやっている所も見るように、との助言があり一般社団法人コワーキングスペース協会®の星野邦敏さんが運営している埼玉県さいたま市の大宮駅近くのコワーキングスペース7F(ナナエフ)の店舗にも伺いました。

星野さんのお店に伺って、色々報告書を書きながらモデルを作っていく中で、面白い人達だと感じたんです。なぜかというと、星野さんが大宮経済新聞を同時に立ち上げていて、「コワーキングスペースを通じて産業や仕事を作り、利用者さんが売上を上げて、雇用が生まれて、その地域に住む。その地域に住んだだけだと自宅と会社の往復になってしまうので地域情報媒体を通じて人が動く仕組みを考える。」というような趣旨のことをおっしゃっていたんですよね。コワーキングスペースと地域活性化についてお話をされていて、あれは僕の中でもう響きまして。「あ!この人って、すごい事考えてんだ。」と思って、そこがやっぱり1つのきっかけでした。コワーキングスペースについて全く知らない中で手前勝手にやっても絶対ダメだなという事もあり、お願いしたという経緯です。星野さんとの出会いの中で、色んな発見があったと感じています。

「生活クラブの特徴をどうやってコワーキングに生かすか」が課題でした。

――実際に2018年の9月からコンサルティングが始まり、オープンが2019年の1月14日でした。ここまで当協会のコンサルティングを受けて頂いて、感想や役に立ったところがあればお聞かせください。

山本さん:実は、コンサルティング担当の方に入って頂くのが初めてだったんです。この生活クラブの店舗事業を始めた時も、素人でしたがコンサルティングを入れずにやってました。ただ、コワーキングは全くの知らない事業体だったので。設計・セキュリティ・広報など、ゼロベースから教えて頂いたいと考えていました。実際にコンサルティングに入って頂いて、経験を全部惜しみなく提供して頂き、ゼロベースから始めた割に形にはなったと思っています。

――逆に、困ったところは何かありましたか?

山本さん:困った点としてなかなか相談出来なかったのは、私の個人的な問題かもしれませんが、生活クラブ生協としての独自性をどうやってコワーキングスペースの提供という事業体の中で活かしていけるのかという点です。私自身の問題整理やビジョン整理が出来てなかった部分があり、それがあれば協会の力をもうちょっと引き出して独自性が出ていたかもしれないと感じています。この点は、知見が増えていますので、今後の運営の中で整えていく予定です。

――それはこれからという部分でもありますね。

山本さん:はい。実際に稼働してからは脇田リーダーが担当をしてくれています。


オープンした「コワーキングスペース永福」

些細なことにも小まめに相談に乗ってもらえたのは、とても助かりました。

――では、ここからはスタッフのリーダー脇田さんにお話を伺います。脇田さんがこのコワーキングスペース永福の担当になられたのはいつからでしょうか?

脇田さん:「コワーキングスペース永福」のオープン前月の2018年12月下旬からです。

――脇田さんは現在、スタッフのリーダーポジションで活動されていますが、オープンしてからのコンサルティングについてご意見をお聞かせいただけますでしょうか?スタッフ応募に対する面接や採用後のスタッフ研修を行わせていただいたり、コワーキングスペースの新規会員の方への面談にも同席させていただきましたが、特に役に立った部分を教えてください。

脇田さん:私自身、2018年12月に担当になった時点では、コワーキングスペースという事業に本当にド素人の状態でした。そのため、本当に細かいちょっとした事から小まめに相談に乗ってもらえたことが、とても良かったと思います。採用に関するバックアップや、契約関連、新規や現会員様からの質問への回答に困った時など、わからないことだらけでしたのでとても助かりましたね。コワーキングスペースに関する基礎的な研修に私も参加させていただき、その後は、新しいスタッフさんへの研修もお願いしています。

――現在スタッフさんは学生の方が多いですか?

脇田さん:半分くらいは学生さんがアルバイトとして働いてくれています。

色んなコワーキングスペースに視察に行けたのが良かったです。

――他に特に印象に残っていることはありますか?

脇田さん:他のコワーキングスペースさんの視察をアテンドして頂けたのがよかったですね。今までプライベートでコワーキングスペースを利用した経験がなかったので、色んなタイプのコワーキングスペースを見学でき、お話もたくさん伺うことができました。

コワーキングスペース永福スタッフのリーダーの脇田さん
コワーキングスペース永福スタッフのリーダーの脇田さん

利用者様が増え、ようやく賑やかな感じになってきました。

――オープンしてから5か月が経ちましたが、いかがですか?

脇田さん:2019年1月14日にオープンしてから3月末頃までは、お客様が入らない時間帯や、日によっては1人もいらっしゃらないこともありました。そんな日が続いたので大丈夫かなと不安にもなりましたね。どうしたらこの状況を改善できるのかと、苦しい時間が長かったのですが、4月に入ってから急に改善しました。まだまだの状況ではありますが。ドロップインのお客様に使っていただくデスクの4つとソファのエリアがあるのですが、そのエリアの人の出入りがすごく頻繁になりました。新規のお客様や月額会員様も増えてきましたね。会社として契約して頂いているところもあり、その社員さんが何名か毎日出入りして、賑やかな感じになってきました。広報の積み重ねや、新年度で利用者様が増えたというのもあるかと思います。

――ここまで、特に力を入れたところなどはありますか?

脇田さん:これから力を入れていきたいことですが、イベントですね。ご縁の出来た方にも協力頂きながら、少しずつですがイベントを開催して、イベントに参加いただいた方がまたスペースのご利用に繋がってきています。

1階のご利用者様を2階に誘導する工夫をしています。

――生協ならではの取り組みがあれば教えてください。

脇田さん:1階が生活クラブ生協の店舗「デポー」ですので、組合員さんにコワーキングスペースを知って頂いて、店舗とスペースをいかに連携させるかということに取り組んでいます。具体的には、店舗の利用者様にランチタイム限定でコービーチケットを配って2階に上がってきてもらうという取り組みを1か月ほどやっていますが、「何する所か分からないし、私行って良いのかしら?」という方が気軽に来てくださって、コンセプトを説明したりその方に合ったご利用のおすすめをしたりしています。例えば、趣味のサークルなどで地域の区民センター使っている方に会議室のご利用を勧めることもあります。その結果、実際の会議室の利用やドロップインに繋がる流れもできてきました。この取り組みはこれからもっと力を入れていきたいと考えています。

――生協ならではの広がり方ですね。現在は個人のご利用とグループでのワークショップなどでのご利用、どちらが多いのでしょうか? 

脇田さん:ドロップインの半分くらいは会社さんなどのグループ利用、残り半分は個人の方がインターネットで調べたり1階の利用者様がコーヒーチケットで知ってリピートで来て頂いたりした方です。近隣の会社さんに会議室を定期的にご利用いただいています。他には、プライベートな集まりでご利用いただくこともあります。そんな中でリピーターの方も少しずつ増えてきているので、大切にしていきたいですね。

統計をとり成長を数字で見ることで、モチベーションに繋げています。

――すごく細かい統計をとられていますよね。

脇田さん:そうですね。利用者様がまだ少ないからこそ、ここまで細かくできているというのもありますが、少しでも伸びていることを数字ではっきりと示すことができれば、スタッフのモチベーションにもつながると思います。ちょっとずつでも良くなってきてということを、皆で見ていきたいという意味もあって、統計は出していますね。

コンセプトを明確にし、地域の方に使っていただける場所を目指しています。

――まだオープン5か月ということで、今後こういう取り組みをしたい、こういうスペースしていきたいなどがありましたら聞かせてください。

脇田さん:現在、少しずつ利用者様が増えてきて、利用者様同士での会話が生まれるようになってきました。せっかくコワーキングスペースをご利用いただいているので、月額会員様をはじめ利用者様同士に会話が生まれ繋がっていけるようなスペースにしたいというのは強く思っています。他には、いかに子どもと一緒に過ごせるコワーキングスペースにしていくかというところがあります。現時点では、一時預かりの事業を行っていますが、キッズスペースをどのように活用していくかという事についても、発展の可能性を感じていますし、どんどん検討していく必要があると考えています。ここを活用してコンセプトをより明確にし、地域の方に使っていただける場所にしていきたいと思います。

「生活クラブ×コワーキング」で、発展につながる仕組み作りを!

――利用者様を増やすために、何か具体的な対策はされているのでしょうか?

脇田さん:先ほど少しお伝えしましたが、現在の利用者様のほとんどが生活クラブとは違う入り口でコワーキングスペースを目指して来ていただいた方なんです。先にコワーキングスペースを利用いただいて、そこから1階の生活クラブの会員になっていただけるという流れもできてきています。会員になるとコワーキングスペースの利用料金が割引になるということもありますね。利用者様は近隣にお住まいの方が多いので、コワーキングスペースがあることで、お店の認知も上がったっていうのは、すごく良い流れだと思っています。もちろん、その逆も同じです。今後は、生活クラブの事業や生協の組合員さんとの連携を強めることで、コワーキングスペースの発展にもつなげていく仕組み作りをして利用いただける方を少しでも増やしていきたいと考えています。これにかんしては、やれる余地がすごくあると思っていますし、工夫もしていきたいです。

生活クラブとして、必要とされている機能をいかに地域に提供できるか。

――仕事してお買い物して帰れるというのは、大きなメリットになると思います。どちらかの利用者様がもう一方に興味を持っていただくという相互作用ですね。

脇田さん:はい。もう1つは、生活クラブという場所の特徴です。食の事業以外にも地域で色んな事業をやってきた時に、いかにその地域に還元できるか、必要とされている機能を提供出来るかということを重視してきました。組合員さんであるかどうかに関わらず、この地域の方に、地域を発展させていくために、このコワーキングスペースをどう使っていただけるかということも、検討していきたいと思います。これに関しては、まだ手が付けられていないため、これからの課題ですね。

「地域」をキーワードに新しい出会いの生まれる場所へ

――ありがとうございます。山本さん、最後に一言お願いします。

山本さん:今脇田が最後に話した部分ですね。色んな働く方々が繋がっていくと言っても、どこでどのようにつながっていくのか。それをしっかりと考えて、この地域の中で新しい出会いや、新しい事業の発想などが繋がれるような場所になれば良いなと思っています。根っこは「地域」というキーワードに持っていきたいですね。私は脇田やスタッフの補佐として、しっかりと運営できるような、事業体として最低限の環境を作っていかなければならないと思っています。

――本日はコワーキングスペース永福を運営されている、生活クラブ生活協同組合デポー事業部部長の山本さんとスタッフのリーダー脇田さんにお話を伺いしました。ありがとうございました。