コラム

店舗向けサブスクリプション型サービス導入システム「Sub.」について、「Sub.」を提供する株式会社ビューン代表取締役社長の大石隆行さんにお話いただきました


取材日時:2020年1月7日
取材場所:貸会議室6F(ロクエフ)

Sub.(サブ)」は、雑誌・マンガの定額制読み放題サービス「ビューン」を展開している株式会社ビューンが提供する、店舗向けのサブスクリプション型サービス導入システムです。店舗独自では導入の難しい定額制のシステムを業界問わず幅広く展開しています。

今回は「Sub.」を提供している株式会社ビューン代表取締役社長の大石隆行さんにお話を伺います。

株式会社ビューン代表取締役社長の大石隆行さん(中央)
株式会社ビューン代表取締役社長の大石隆行さん(中央)

パッケージ化された店舗向けサブスクリプションサービス「Sub.」

―― まずは「Sub.」について簡単にご紹介をお願いします。

はい、「Sub.」は、一言で言うと店舗向けのサブスクリプション、いわゆる定額制を導入するためのシステムです。コワーキングスペースやジムなんかでよくある「初月無料」や「最低契約期間」などを設定できる月会費型、「一か月間コーヒー毎日2杯まで無料」といった感じで月の利用回数を設定できる定期券型、定額制ではなく使用期限と料金、利用できる回数を設定できる回数券型の3つの会員制度を用意しています。

カフェやコワーキングスペースなどで、サブスクリプションをやりたいお店があったとして、サブスクリプションのシステムをお店独自で作るということは非常に面倒で難しいことですよね。そこで、我々が裏方という立ち位置でシステムを提供しています。「Sub.」はシステムがパッケージ化されているので、お店が展開したいサブスクリプションのサービスを簡単に実現することができます。

培ってきたサブスクリプションのノウハウを新規事業へ

――長く雑誌・マンガの定額制読み放題サービスを提供してきた「ビューン」が、なぜ店舗向けの「Sub.」を立ち上げることになったのか、立ち上げまでの経緯を教えてください。

「Sub.」は2019年の5月に提供を開始したのですが、その一年位前から発足自体は考えていました。

どうして飲食店やヘアサロン、コワーキングスペースといった店舗を対象としたサブスクリプションのサービスを作ろうかと思ったかというと、株式会社ビューンが、雑誌・マンガの読み放題のサブスクリプション事業を日本で一番長くやってきた会社だということが背景にあります。

弊社が、雑誌・マンガの読み放題サービス「ビューン」の提供を始めてから2019年時点で9年経っていました。日本で一番長く雑誌・マンガの読み放題というサブスクリプション事業をやってきた会社として、そのノウハウを何か新しい事業に生かしたいという思いがずっと私の中にありました。

電子書籍の読み放題・音楽の聞き放題・映像の見放題と色々なことを考えたんですが、それらは世界的に大きな会社がやる事業で簡単には勝てない。じゃあ飲食店やヘアサロンといった身近な店舗ではどうか。飲食店など通常のお店で独自にサブスクリプションを作るとなると、当然技術力が課題になります。そこで我々が培ってきたサブスクリプションのノウハウを店舗事業に生かせるのではないか、という思いから「Sub.」を作りました。

インタビューに応じる大石隆行さん

――2019年の5月からサービスの提供を開始してから今まで、サービスを導入している店舗にはどのような業態が多いですか?

カフェだったり、猫カフェだったり、コワーキングスペース、リラクゼーションサロン、ステーキ店など色々なところに利用してもらっています。すべて合わせて現時点で約30店舗に導入してもらっています。

利用人数が一番多いのは、月額での利用料金が比較的安いカフェ系のお店です。月額費用が高いとやはりそれを購入するお客さまの数が限られてしまうので、カフェなどが利用人数的には多いかなと思います。

「Sub.」導入のメリット

――実際にサービスを導入した店舗には、どのようなメリットがありますか?

サブスクリプションを導入することによって、お客さまの売上を固定化できるという点がメリットですね。
カフェの例でいうと、カフェに来るお客さまの多くは一見さんなんですよね。雨が降ったりすると、目の前にあるカフェに入ってみようというお客さんが多いという感じで、天気など色々な要素に売上を左右されてしまうと思います。サブスクリプションはそういった要素に売上が左右されないということがメリットになります。

他にも、サブスクリプションに入ったお客さまには定期的にお店に来るという習慣がつくと思いますので、リピート率が上がったり、サブスクリプションで無料で飲めるコーヒーを頼むついでにサンドイッチも買おうといった利用が増えれば顧客単価が上がったり、そういったメリットもあると思います。

――確かに、コーヒーがサービスされたら、フードメニューも試してみようかな?という気持ちにもなりやすいかもしれません。
一度サービスを利用したお客様に、利用を継続してもらうための工夫などはあるのでしょうか?

はい、利用料金はクレジットカードから引き落とす仕組みになっています。月額2,500円で毎日コーヒー2杯まで無料という商品が実際にあるのですが、一度その商品を買ってもらったら毎月自動的に決済は継続されます。
お客さまが自ら辞めたいと思わない限り、店舗とお客さまの関係が継続していくというのも、現金払いでは通常ないと思うので、サブスクリプションならではのメリットですね。

――実際に一度サービスを利用したお客さまの継続率はどのくらいなのでしょうか?

お店によって継続率には差がありますが、カフェだと1ヶ月目から2ヶ月目までの継続率が70~80%くらいです。比較的高いのではないかなと思います。

サブスクリプションを導入する前よりも、何度もリピートしてお店に来てくれるお客さまが増えているというような役立ち方もできていると思っています。

インタビューに応じる大石隆行さん

サブスクリプションの課題と新たな取り組み

――サービスを開始してからわかったことや、今後の課題だと思うことは何かありますか?

サブスクリプションは「使うとものすごく得なんだけど、使わないと損をする」という風に考えるお客さまが多いということがやってみてわかったことです。
今年(2019年~2020年)の年末年始は、一般的には9連休くらいあったと思うんですが、そうすると休みに入る前に一旦辞めて、休み明けにまた入り直すというお客さまが増えるんですよ。やっぱり使わないともったいないから。

ただ一旦辞めてしまったお客さまというのは、必ずしもまた契約し直してくれるとは限らないんですよね。よくよく考えると月に2,000円とか3,000円でも高いと考えるお客さまもいらっしゃいます。やはりサブスクリプションは「使わないと損をする」と考えるお客さまが多い、ということがやってみて実感したことです。

――全ての人が得をするわけではない、というところがサブスクリプションの課題ということでしょうか?

そうですね。やはり月額料金が高いと感じるお客さまもいらっしゃるので、サブスクリプションが万能だと私は思っていないんです。

例えば、月額2,500円で1日2杯までコーヒーが飲めるという商品があったとします。コーヒーは月に60杯飲むことができますので、1杯あたりだと40円くらいということになります。仮にコーヒーを毎日2杯飲み続けたとしたら、1杯40円なのでとても安いですよね。
でも実際に同じお店で月60杯コーヒー飲むかというと、そうではないと思うんですよ。もし月に10杯しか飲まないとすると1杯あたり250円になりますので、定価とそんなに変わらないという風にお客さまは考えると思います。だからあまり使わなかった人は翌月に辞めてしまう可能性があるんです。安いと思って利用したけれど高かったということなので、そうするとサブスクリプションの良さが無くなってしまいます。

サブスクリプションに向いているのは、その商品やサービスをよく使う人で、使わない可能性がある人にとってはそれほどお得にならないという点はサブスクリプションの課題としてあるのかなと思います。

――そういった課題に対して、何か取り組んでいることはありますか?

はい、サブスクリプションではない【回数券型】のサービスを新たに始めました。回数券というのは、これまで紙のスタンプカードでやっていたような、例えばコーヒー10杯分の料金で11杯飲むことが出来ますというものです。1杯分お得になる回数券の有効期限が6カ月という風に設定すると、損する確率が減りますよね。

ですので、私たちが提供しているサービスは、毎月自動的に更新される【月会費型】と【定期券型】のサービスと、自動更新ではなく都度購入してもらう【回数券型】の3つで、お店の方に選んでもらっています。

インタビューに応じる大石隆行さん

業界を絞らず、幅広く「Sub.」を届けたい

――カフェの例でお話を頂いていますが、コワーキングスペースだとどのような利用が考えられますか?

コワーキングスペースだと現在、「パセラのコワーク」さんと「ツクル・ワーク」さんにご利用頂いています。

コワーキングスペースでの「Sub.」の使い方には二つあると思います。
まずは私たちが提供している月会費型のサービスが、一般的にはコワーキングスペースに対応していると思いますので、月会費の徴収手段として「Sub.」を使っていただくということが一つ目です。
もう一つは、ドロップインのために「Sub.」の仕組みを使うということですね。例えば先ほどお話した回数券型だと、10日分の料金で11日分使えるというやり方があります。定期券型だと月額6,000円でドロップインが10日間使えるという使い方が出来ます。もっとこの仕組みを応用すると、異なるコワーキングスペースで共通の回数券や定期券を発行するというやり方もあると思います。

先ほどカフェでの利用が圧倒的に多いとお話しましたが、僕たちとしては「Sub.」という仕組みがお役に立てるのであれば、業界を絞るつもりは全くありません。コワーキングスペースはもちろん、ヘアサロンやネイルサロンなども良いと思います。サブスクリプション事業は市場としてはまだ新しいので、どこにニーズがあるのか探りながらやっているのが今のフェーズです。

――現時点で約30店舗が「Sub.」を利用しているとのことですが、今後の具体的な目標はおありですか?

導入店舗数で言えば、1,000店舗とかそういうレベルの数を集めないと、事業として面白い状況にはならないと思っています。どう1,000店舗まで増やしていくかという所が事業としての課題です。

カフェなどの飲食やコワーキングスペースというのは特定の地域に根ざしたビジネスが多いと思うので、それぞれの地域で有力なパートナーを見つけ、そのパートナーシップを結んだ会社さんと協業して広げていくということを考えています。今、私たちが一店舗一店舗開拓して店舗の方と直接お話をしているのはケースを作るためだと思っていて、その先1,000店舗を目指すとなるとやはりパートナーシップの強化が必要になると考えています。

「便利+楽しい」店舗のサブスクリプションサービスをもっと身近なものに

――サービス導入の店舗を増やすとともに、サービスを多くのお客様に利用していただくためには、店舗におけるサブスクリプションを世の中にもっと浸透させる必要があるかもしれませんね

そうですね。サブスクリプションサービスではないですが、参考になるのは同じソフトバンクグループのPayPayだと思います。たまにPayPayを使って買い物をすると1,000円引きとかがありますよね。ただ単に決済手段としてPayPayを使っただけで、1,000円引きという予想もしなかったことが起きるわけですよ。単なるお金を払うという行為がエンターテインメントになっているというとことがPayPayにはあると思いますし、そこがPayPayを急速に普及させた要素の1つかなと思っています。

私たちが提供している「Sub.」という仕組みは、決済手段や会員証になるというメリットがあります。それを便利だと思ってもらうことは非常に重要なことなのですが、でも日々使う上で特別楽しいわけではないんです。今は実現していないですが、PayPayがやっているように便利+楽しいと思わせる何かを考えなくてはならないなと思います。

――便利+楽しい」が今後のサブスクリプション事業に必要なキーワードですね

今、サブスクリプションで重要なことって、自分が欲しい商品がサブスクリプションによってお得になる、という点だと思うんですよ。でも、お得って段々慣れてきますし、慣れたらもっとお得が欲しいと思うのが人間ですよね。ただお客さまにとってのお得をずっと追求していくとお店は儲からなくなっていきます。それでは本末転倒です。
だからこそ、これから必要なのは「サブスクリプションで商品がお得になる、さらにその先に楽しい要素がある」ということなんじゃないかなと思います。

――ありがとうございます。最後にコワーキングスペース業界に一言お願いします。

「Sub.」関係なく、コワーキングスペース業界全体に期待していることは、コワーキングスペース利用者出身の成功者が出ることです。

例えばアップルコンピューターのガレージみたいなことで、あそこのガレージ出身なんだよみたいなことって米国ではよくあるじゃないですか。
日本では、住宅事情の問題もあってガレージで創業というのは、あまりないですが、これから日本のスタートアップを考えた時に、「彼(彼女)は、このコワーキングスペースで創業したんだよ」という話が1つあると、スタートアップの成功ストーリーとして面白いと思うんです。それが私個人としてコワーキングスペースに期待する点です。

そのために個々のコワーキングスペースには、それぞれにキャラクターがあってほしいと思っています。単に机と椅子が並んだスペースなら喫茶店でも良いかもしれない、やはり創業支援の仕組みやしっかりとしたキャラクターがないと、「コワーキングスペースで創業した」ということの意味が薄まってしまうと思うので、コワーキングスペースにはそれぞれのキャラクターを大事にして欲しいです。

あとは、やっぱりアイデアを考えるときに、1つのコワーキングスペースにずっと居るのは気が詰まると思うんです。そうするとコワーキングスぺ―ス同士が連携し、横のつながりを強くして、例えば大宮のコワーキングスペース7F(ナナエフ)の月額会員だったら、別のコワーキングスぺ―スを少し良い条件でドロップイン利用できるとか、そういう横の連携があるともっと面白くなると思います。その横の連携を促進するために「Sub.」を使っていただけるとうれしいですね。

株式会社ビューン代表取締役社長 大石隆行さんへのインタビューの様子
株式会社ビューン代表取締役社長 大石隆行さんにお話を伺いました。ありがとうございました。

一般社団法人コワーキングスペース協会®では、コワーキングスペース業界に関わりのあるコンテンツを今後とも提供していきます。