コラム

スマイルリンク株式会社が運営するコワーキングスペース「おおたfab」について、代表取締役の大林万利子さんにお話いただきました。


蒲田駅西口から歩くこと2分。小さな看板を横目に建物の中に入ってエレベーターで6階へ。そこに「蒲田のシェアスペース おおたfab」さんは現れます。

「蒲田のシェアスペース おおたfab」代表取締役の大林万利子さんとの記念撮影
「蒲田のシェアスペース おおたfab」代表取締役の大林万利子さん(左)

中に入ると出迎えてくださったのは、代表取締役社長の大林万利子さん。およそ8年前に会社員を辞め、3Dプリンターの開発製造や3Dプリンターを利用した商品開発などを手掛けるスマイルリンク株式会社を創業しました。
偶然が重なって3Dプリンターを開発することになった大林さんは、そこから紆余曲折の末、コワーキングスペースを作ることになったそう。今回はそんなおおたfabさんのコワーキングスペース立ち上げ秘話や今後の展望についてお伺いしました。 

おおたfabの看板

「おおたfab」ができた理由

まず初めにおおたfabの歴史を辿ります。
最初に伺ったのはコワーキングスペースを作った理由です。大林さんは会社員として勤務された後、ご自身でスマイルリンク株式会社を設立されました。そこで始めたのはなんと3Dプリンターを作ることでした。当時を振り返り大林さんは語ります。

雑貨を作ってみたいとはずっと考えていました。自宅でのんびりやろうかなと思っていた矢先に3Dプリンターの部品を作ってみませんかというお話をいただいて、ひょんなことから3Dプリンターの製造・開発の仕事に就くことになりました。

2015年、スマイルリンク株式会社さんはファブラボとしてスペースを立ち上げます。
ファブラボとは、3Dプリンターやカッティング工具など、さまざまな工作機械を備えた市民工房ネットワークです。大林さんは、3Dプリンターを作って多くの人に使ってもらった方が良いという考えから大田区内にファブラボを設立します。その時に「おおたfab」という名前のつく施設が作られました。

2017年の秋、利用者数が増えたこともあり、移転を決心されます。もともと大田区内の場所で展開していたファブラボを現在の場所に移すと同時にコワーキングスペースを作ったそうです。機械をシェアするファブラボを運営されていた大林さんにとって、ワークスペースをシェアするコワーキングスペースの利点は以前から感じられていたようで、

前は狭かったので、コワーキングスペースをやりたくてもできるスペースがなかったというのが正直なところですね。広くもなりましたし、駅からも近いということもコワーキングスペースの立地として合っていたとも思います。
もともとファブラボも機械をシェアするということで、シェアリングエコノミーという点でもとても世の中のためになるのではと思いました。また、交流することをファブラボの中でもかなりやっていたので、そのような経験のメリットもあるかなと思って始めました。

ゼロからのコワーキングスペース設立ではなかったこともあり、あまり不安などはなかったそう。機械をシェアする場所から、ワークスペースもシェアする場所へと、おおたfabさんは進化していきました。

スペース全体を動かしやすくすることを意識しています

建物の6階にエレベーターで昇り、着いた先で扉を開けると約200平方メートルの広々としたスペースが広がります。
おおたfabさんには大きく分けてスペースが6つ。
おしゃべりや飲食ができる共有スペース、予約して使うことができる貸しスペースが3種類、3DプリンターやUVプリンターなどが揃うファブラボスペース、静かに集中して作業ができる集中スペース、貸し出しなども行いスタッフが常駐している事務所スペースです。このうち、貸しスペースでは動画配信スタジオに挑戦中だといいます。YouTubeチャンネルも2020年10月に開設されたのだとか。

一番のおすすめスペースは、他のコワーキングスペースではあまり見られないファブラボスペースと思いきや、

特定のおすすめスペースがあるというよりは、このスペース全体を動かしやすくすることを意識しています
夏にはハンドメイドのマルシェを開いたこともあって、割と固定しないようにと。そうすると色々な使い方ができますし、一部屋が割と広いので、例えば何か教室をやりたいという人がいたらスペースをお貸しできますし、フレキシブルにできるということがおすすめですね。

とても広い一つの部屋を区切って使っているおおたfabさんは、レイアウトも頻繁に変更しているそうです。

そして注目すべきなのが、スペース内の細かな部品や小物などもファブラボスペースで作られていること。例えば、この椅子についている肘掛け。これを机にかけることによって、椅子の脚が上がり夜は全自動掃除機のルンバで床を効率良く掃除できるそう。椅子を反転させて机に乗せる手間もありません。「既存のものに自分たちで小さな工夫を加える」ことで、スペースをより良い場所にしているそうです。

肘掛けの部分に工夫が凝らされた椅子
肘掛けの部分に工夫が凝らされた椅子

そして、おおたfabさんに訪れて一番驚くことは、10台以上の3Dプリンターがあることでしょう。この3Dプリンターは全て自社製。加えて、大きなレーザーカッターとUVプリンターがあり、現代のものづくりにはとても適した環境です。初心者の方がいきなり使うことはできませんが、初心者向けの講習会も充実しています。講習会に参加したのちファブラボ会員になる人も多いのだとか。

お仕事で使われる方や趣味で使われる方など、用途はさまざま。中には茨城からやってくる会員様もいるといいます。作ったものは、スペースの販売コーナーで売ることもできるそうです。

会員さんと一緒にお仕事している感覚が強い

ここで、コワーキングスペースを運営する上で導入しているツールについて教えていただきました。

使用しているレジツールはAirペイ。一般社団法人コワーキングスペース協会が定期開催しているコワーキングスペース運営者勉強会からも情報収集しているそうです。
決済方法は現金、PayPayとAirペイを利用したクレジットカードや電子マネー決済の3つ。販売している飲み物の代金などは人を介さずに購入できるよう、近くにPayPayのQRコードを貼り付けたり、小銭入れを近くに置いたりと工夫が凝らされています。

従業員は大林さんを含めてなんと3人。少人数でのコワーキングスペース運営となると、とても忙しいのではないでしょうか。

基本的に1.5人体制くらいで営業しています。土日は2人のことが多いですね。平日はなるべく1人にするようにしています。
ここのスペースの管理や、利用者さん対応のほか、自社の開発業務もやっています。3Dプリンターなどで商品化もしています。確かにそういう意味では忙しいですね。私たちもこのワークスペースで、会員さんと一緒にお仕事をしている感覚が強いです

限られた人員の中、スペース運営に加えて運営会社の開発業務も同時に行うからこその苦労があるといいます。

やることが多くなってしまうので、実際色々遅れがちではあるなということは感じています。少人数であるので守備範囲が広いです。お茶の補充や書類作成、経理もやっているので、そのような意味では時間の優先順位のつけ方が難しいという課題はあります。

貴重なお話をくださった大林さん

コワーキングスペースを運営する上で難しいこと

コワーキングスペースを立ち上げる際に意外と困るのが、備品周りの整備です。必要なものを少しずつ、運営しながら揃えていったと話します。

特に良い情報は集まって来なくて、自分で検索したり人からもらったりしていました。最初はそんなに揃えなかったですね、何がどれくらい必要かということもわからなかったですし、どんなふうに使うのかもわからなかったので、そこまで考えませんでした。でも、自分も会社で仕事をしてきていたので、ワークスペースに必要なものは大体わかっていたというのはありますね。

そして、どのコワーキングスペースにも重要な集客方法の問題。どのような集客方法をしているのかお聞きすると

こちらが聞きたいです(笑)。正直に言えば特に何もしていません。広告も出していないですし、有益な広告を教えてもらいたいくらいです。SNSは、Facebook、Twitter、LINE等をやっています。
新しい会員さんはウェブで検索している人が多いと思います。もともとコワーキングスペースを利用しようとしている人は、ネットに堪能なので(笑)。ファブラボに関しては全国にそこまで数がないので、また違います。

と笑顔で答えてくださいました。

また、今年は新型コロナウイルス対策という問題もあります。

コワーキングスペースは閉めませんでしたが、利用者の方はもちろん少なくなりました。対策としては、もともとファブラボ会員の方はコワーキングスペースも利用して良いルールだったのですが、緊急事態宣言の時期だけはそれはやめてくださいとお断りしていたことですかね。機械を使う人を優先して、利用される方も制限していました。私たちの会社としては、フェイスシールドの製造・販売をしていたのでそれがかなり忙しかったです。日本全国から注文があってとても大変でした。

こう話すように、コロナ対策としてコワーキングスペースの運営体制を整えるほかにも、3Dプリンターの製造・開発という事業ありきの忙しさにも直面したそうです。他にも、顔認証で入室の記録ができる仕組みなど新しい取り組みも始められています。

顔認証システムについてお話をくださる大林さん
顔認証システムについて説明する大林さん

会員さんたちの交流が結構あるので、それがもっと増えるといいなと思って

オフィスをシェアするということ自体はとても合理的だと思います。それだけでは単純に「お得だから」ということになってしまいますけど、そうではありません。会員さんたちの交流が結構あるので、それがもっと増えるといいなと思って、そのようなことを意識してコワーキングスペースを作りました。

意識したニーズについて大林さんがこう語るように、おおたfabさんの一番の魅力は「つながり」です。多くのイベントを開催するおおたfabさんですが、1つのイベントだけに参加する人はあまりいないそう。

うちはイベントをやりすぎで(笑)。1つに参加すると他にも来るという人が多いです。たとえば、3Dプリンターの教室に来た人がロボットプログラミング教室の生徒になってしまったり、3Dプリンターの教室から起業副業のイベントに来て、そのまま会員になったりとかそういうことが多くて、1つだけに参加するということあまりないかなと思っています。皆さん結構仲の良い人が多いですね。

またkindle出版についての講座を開催したところ、会員さんたちでkindle本を作る気運が高まり「おおたfab文庫」を作ったといいます。現在では6冊の本が出版されており、このような企画の打ち合わせなどで、「つながり」ができていくことがおおたfabの特徴です。

文章教室をきっかけに製作された小冊子
文章教室をきっかけに製作された小冊子

今あるものに一手間を加えて、より良い環境にしていく

最後に今後の展望についてお聞きしました。

今は文章教室をやっているのですが、それに参加しているメンバーをはじめとして小冊子を作っています。北海道の人なども参加されていて、このようなものを発展させていくと、興味深いと思います。人の考えていることは面白いです。今は小説家の先生に文章教室を開いていただいているのですが、このような活動にもっといろんな方に参加していだきたいと思います。

このように常にイベントなど身近な場所から新たな活動を展開しているおおたfabさん。「今あるものに一手間を加えて、より良い環境にしていく」おおたfabらしさはスペースでも至るころに表れていました。今後もおおたfabというスペースを介しての「つながり」の輪は広がっていくに違いありません。

「おおたfab」基本情報

住所東京都大田区西蒲田7-4-4 小山第二ビル6F
アクセスJR 蒲田駅:西口徒歩2分
月額料金5,500円~
ドロップイン料金1時間:450円
2時間:900円
3時間:1,350円
1日:1,800円
座席数およそ50席
固定席の有無あり
営業時間・定休日営業時間:9:00~19:00 土日祝は10:00-17:00
定休日:なし (年末年始は休み)
URLhttps://ot-fb.com/